DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進には、明確な工程表となる「DXロードマップ」が欠かせません。経済産業省も「ゴールを定め、ロードマップを描くことがDX推進の第一歩」と明記しており、企業の成長戦略における基盤として位置づけられています。
しかしながら、実際には「どう作ればいいのか分からない」「何を基準に工程を立てるべきか悩んでいる」と感じている担当者も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、DXロードマップの基本概念から具体的な作成手順、役立つフレームワークを解説します。
DXロードマップとは
DXロードマップとは、デジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを変革するプロセスを、工程ごとに明確化した計画表です。経済産業省が公表する「DX推進指標」においても、ゴールに向けた具体的なロードマップの策定は、DX推進の第一歩と位置づけられています。
DXロードマップの必要性や、混同されがちなマイルストーンとの違い、そしてビジョンとの関係性について解説していきます。
出展:経済産業省|産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進施策について
DXロードマップの必要性
DXロードマップを策定する目的は、取り組みの方向性と達成時期を明確にし、社内で一体感を生み出すことにあります。たとえば、経済産業省が推奨するように、ビジネスモデルや業務プロセスを再設計する際には、段階的な計画の設定が不可欠です。
目標と期限を設定すれば、担当者の意識も高まり、作業のモチベーション向上につながります。さらに、ロードマップは社内共有が前提となるため、チーム全体での共通認識を築きやすくなるでしょう。これにより、認識のズレによるトラブルを防ぎ、スムーズな実行が可能となります。
ロードマップとマイルストーンの違い
ロードマップとマイルストーンは混同されがちですが、それぞれの役割は異なります。ロードマップは全体の流れを示す「工程表」であり、マイルストーンは途中経過を確認するための「中間目標」です。
長期的なDX推進では、各フェーズで進捗が見えにくくなることがあります。そうした場面でマイルストーンを設定することで、達成すべきポイントを明確にでき、進捗確認が容易になります。
DXロードマップとビジョンの重要性
DXロードマップを作成するうえで、事前に明確なビジョンを持つことはとても重要です。なぜなら、ロードマップの各工程は、最終的に実現したい姿に向かって進む道筋となるためです。
たとえば、業務の効率化を目指す場合と、顧客体験の向上を目指す場合とでは、取るべき施策が異なります。どのような価値を創出し、どのような課題を解決したいのかを定めておくことで、具体的かつ効果的なロードマップが描けるようになるでしょう。
関連記事:DX成功にはビジョン・戦略の明確化が必須|策定手順や企業のビジョン事例を紹介
DXロードマップの策定に役立つフレームワーク5選
DXロードマップを作成する際には、現状の把握や課題の整理が欠かせません。その際に役立つのが、フレームワークと呼ばれる分析手法です。ここでは、DX計画に活用できる代表的な5つのフレームワークについて紹介します。
①3C分析|自社の強みと課題点を把握
3C分析は、「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの視点から現状を整理する手法です。DXを進めるうえでは、自社の提供価値や強みを再確認し、競合との差別化ポイントを明確にすることが重要です。
さらに、顧客のニーズを把握することで、DX施策がどれだけ市場に適しているか判断しやすくなります。自社の立ち位置を見直したいときに役立つフレームワークです。
②4C分析|自社の状況を理解
4C分析は、「価値(Customer Value)」「コスト(Cost)」「利便性(Convenience)」「コミュニケーション(Communication)」の4つの要素で考える手法です。商品やサービスを提供するうえで、顧客視点に立った設計ができているかを確認することができます。
DXでは、技術だけでなく、顧客との関係性や利便性も重視されるため、4C分析はとても有効です。DXの方向性が顧客ニーズと一致しているかを見直す際に活用してください。
③SWOT分析|企業の内部環境と外部環境を把握
SWOT分析は、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの視点から、自社を多角的に分析する手法です。
内部要因と外部要因の両方を整理することで、リスクと可能性を同時に把握できるようになります。これにより、DXの推進方向を戦略的に検討できるようになるでしょう。特に、DXによる競争優位性を検討する際には有効なフレームワークです。
④PEST分析|自社事業に影響を受けている外部環境の分析
PEST分析は、「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4分野に注目して、外部環境を分析する方法です。
市場の変化や法律の改正、技術革新など、自社では制御できない外的要因を正しく把握することで、リスクへの備えや新たな機会の発見につながります。中長期的なDX戦略を考える際に、活用を検討しましょう。
⑤VC分析|付加価値がどの行程で出しているかを分析
VC分析(バリューチェーン分析)は、企業活動を細分化し、それぞれの工程がどのように付加価値を生み出しているかを可視化する手法です。DXでは、特に付加価値の高い工程に集中して改善を行うことが求められます。
そのため、この分析を行うことで、DXによってどの業務が効率化できるのかが明確になります。生産性を高めるDX施策を検討する際に有効なアプローチです。
DXロードマップの策定手順
DXを成功させるには、明確な手順に基づいたロードマップの策定が欠かせません。目指すゴールを明示し、工程を整理することで、社内全体が一体となってDXを推進できます。ここでは、ロードマップ策定の8つの手順について詳しく解説します。
手順①|DXのビジョンを踏まえて目指す目標を明確にする
最初に行うべきは、DXによって実現したい理想の姿を明確にし、それに基づいた具体的な目標を設定することです。目指す方向性が不明確なままだと、途中で迷いやブレが生じる原因になります。ビジョンを基に目標を決めておくことで、計画の軸がぶれにくくなります。
手順②|設定した目標の達成時期を具体的に定める
次に、目標を「いつまでに達成するか」を明確にします。期限が曖昧なままだと、取り組みの優先順位やスピード感が失われてしまいます。達成時期を具体的に設定しておくことで、関係者全員が同じタイミングで進捗を確認できるようにするのが目的です。
手順③|現時点での業務状況や課題を把握する
目標とスケジュールを決めた後は、現状の業務フローや組織体制を整理し、抱えている課題を洗い出します。現在どこで非効率が発生しているか、どの業務がボトルネックになっているかを知ることが、改善の第一歩です。
手順④|想定される問題やリスクを抽出する
DXを進める過程では、さまざまな障害やリスクに直面する可能性があります。そのため、事前に起こり得る問題をリストアップしておくことが大切です。たとえば、システム導入の失敗、社員のITリテラシー不足、外部委託先との連携ミスなどが挙げられます。
手順⑤|抽出した問題に対する対処法を検討する
リスクを把握したら、それに対してどのように対応するかを事前に考えておきましょう。対応策が明確になっていれば、トラブルが起きた際も冷静に対応できます。社員のITスキル不足には教育研修を設ける、外注ミスには契約前のチェックリストを作るといった対策が考えられます。
手順⑥|マイルストーンを設定する
マイルストーンとは、DXの進行過程における中間目標のことです。最終ゴールまでの道のりをいくつかの区切りに分けることで、進捗状況の管理がしやすくなります。マイルストーンを設定すれば、関係者が現在どの段階にいるのかを把握しやすくなり、計画の軌道修正もしやすくなるでしょう。
手順⑦|必要な各工程を時系列に並べる
設定した目標やマイルストーンをもとに、必要な作業工程を時系列で整理します。これにより、どの作業をいつまでに終えるべきかが明確になり、混乱を起きにくくするのが目的です。
時間軸に沿って作業を組み立てることで、同時並行で進めるべき作業や優先順位が見えてきます。
手順⑧|策定した計画を全社員に共有する
最後に、完成したロードマップを全社員と共有しましょう。経営層だけでなく、現場のスタッフまで計画内容を理解することが重要です。計画を共有することで、社内全体で同じ目標に向かって取り組む体制をつくることができます。
DXをロードマップ通りに進める3つのポイント
DXロードマップを策定しただけでは、変革は進みません。実際の現場で確実に実行し、成果へつなげるには、日々の取り組み方にも工夫が必要です。ここでは、ロードマップに沿ってDXを着実に進めるための3つの重要なポイントを紹介します。
超短期・短期・中長期にアクションを分類する
DXを確実に推進するためには、目標までのアクションを期間別に分けて計画することが効果的です。超短期(1か月以内)・短期(半年以内)・中長期(1年以上)のように段階的に分類することで、現実的なスケジュール管理が可能になります。
また、段階ごとに達成すべきタスクを細分化すれば、作業の進捗が明確になり、関係者全員の認識も揃えやすくなるでしょう。目の前の行動から先の展望まで、時間軸で整理して進めることが重要です。
フレームワークを活用する
DX推進においては、自社の現状や課題を客観的に把握することが欠かせません。その際に役立つのが、3C分析やSWOT分析などのフレームワークです。情報の整理や戦略の見直しがしやすくなります。
さらに、定期的に同じフレームで分析を繰り返すことで、変化や進捗を把握しやすくなり、計画の修正にも対応できるようになります。全体を俯瞰する手段として活用しましょう。
DXビジョンを繰り返し社内に共有し方向のズレをなくす
どれだけ優れたロードマップを策定しても、社内で共有されていなければ意味がありません。DXビジョンや行動計画を繰り返し発信することで、社内の認識を揃え、ブレのない推進体制を築くことができます。
長期にわたるDXでは、途中で目標意識が薄れるリスクがあるため、定期的な説明会や社内掲示が効果的です。全員で共通の方向を目指す体制を整えることが、成功の鍵となるでしょう。
まとめ
DXを成功に導くには、明確なロードマップの策定が欠かせません。ビジョンの共有や目標の設定、段階的なスケジュールの明示によって、組織全体の方向性を一致させることができます。今回紹介したステップを参考に、自社に合ったDXロードマップを描き、着実に推進していきましょう。
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