DXの成功には明確なビジョンと戦略の策定が欠かせません。なぜなら、ビジョンがあいまいなまま進めると、現場の行動がバラバラになり、成果につながりにくくなるためです。
この記事では、DXビジョンの定義や構成要素、策定手順、成功企業の事例までを解説します。DXを着実に進めたい方はぜひご覧ください。
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DXにおけるビジョンとは?
ビジネスにおけるビジョンとは、企業が将来的にどのような姿を目指すのかを示した理想像のことです。DXのビジョンとは、デジタル技術を活用して、会社がどのように変革し、どんな価値を生み出していきたいのかを明確にするものです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、業務プロセスやビジネスモデルをデジタルの力で根本から変えていく取り組みのことを指します。その中で、DXのビジョンは「企業としてどこへ向かうのか」という方向性を社内外に共有する役割を担います。
実際に、多くの国内企業がDXに取り組んでおり、企業はホームページや経営方針の中で、自社のDXのビジョンを積極的に発信しています。
DXのビジョンを構成する4つの要素
DXのビジョンを明確にするためには、4つの要素を整理することが欠かせません。それぞれの観点から言語化することで、誰が見ても方向性が理解できるビジョンが完成します。以下では、必要な4つの要素を順に解説していきます。
①背景
DXのビジョンを作成する際には、なぜ今DXが必要なのかという「背景」を明確にすることが重要です。社員が納得し、自分ごととして捉えるためには、納得できる理由の提示が不可欠です。たとえば、以下のような状況を背景とするケースが多く見られます。
- グローバル競争が激化する中で、商品やサービスの差別化を図りたい
- コロナ禍に対応し、業務や販売チャネルのオンライン化を進めたい
- 原材料高騰や人手不足といった外部要因を受け、業務効率を改善したい
このように、自社を取り巻く環境変化と課題を明示することで、DXの必要性が関係者全体に伝わりやすくなります。
②将来の姿
DXを推進するうえで、企業として「どのような未来を描いているのか」を示すことはとても重要です。曖昧な理想ではなく、具体的な成果や変化を想定することが、現場の行動につながります。
たとえば、「今より顧客満足度を20%向上させる」や「5年後に業務の8割を自動化する」といった形で、定量的なゴールを掲げる企業もあります。中長期でどのような変化を達成したいのかを、実現可能な水準で整理しておきましょう。
③チーム体制
ビジョンを実現するには、それを支える体制が欠かせません。どの部門が中心となり、どのように社内を巻き込むのかを決めておく必要があります。
企業によっては、DX専門部署を新たに設置する場合もあれば、事業部単位で取り組みを進めるパターンもあります。また、経営陣が直接プロジェクトを主導するケースも増加しており、会社の規模や目標、既存のリソースをふまえ、自社に最適な体制を構築することが重要です。
④具体的なステップや施策
体制を整えるだけでなく「どのような順序で、何に取り組むのか」まで明確にしておくことが必要です。DXが単なる理想論ではなく、実行可能な計画として社内に浸透しやすくなります。
たとえば、自社の強みや業界特性を活かしたデジタル施策や、既存の業務に無理なく導入できる小さな変化から着手する方法が考えられます。取り組む内容が実際の業務に即していれば、現場でもスムーズに対応しやすいでしょう。
DXビジョンの5つの策定手順
DXのビジョンを策定する際は、ただ理想像を掲げるだけでは実行に移すことが難しいため、計画性のあるステップが必要です。ここでは、ビジョンを形にするための5つの手順を紹介します。
手順①DXを推進する目的を明確にする
まず最初に行うべきことは、自社がなぜDXを進めるのか、その目的を明らかにすることです。目的が曖昧なままでは、施策の優先順位も定まりません。
たとえば「生産性の向上」「新たな顧客体験の創出」「データ活用による経営判断の迅速化」など、具体的に書き出すことで、プロジェクト全体の軸が定まります。明確な目的があることで、現場や経営層の足並みも揃いやすくなるでしょう。
手順②DX実現に向けた事業戦略の方向性を具体的に示す
次に、DXで実現したい事業の方向性を明確にします。どの市場でどんな価値を提供するのかを言語化することが求められます。
たとえば、顧客接点のオンライン化を進める、既存商品のサブスクリプション化に取り組むといった形で、目指す方向を具体的に定義しましょう。戦略の内容が明確になることで、現場の行動に落とし込みやすくなり、目標に向けた取り組みが加速します。
手順③組織の推進体制を明確にする
DXビジョンを実行するには、責任と役割が明確な体制づくりが不可欠です。どの部署が主体となるのか、誰が意思決定を担うのかを決めておきましょう。
たとえば、DX推進室のような専任部署を設けたり、既存の業務部門に兼任でDX担当を置いたりと、会社の規模や文化に合った体制を選ぶことが大切です。体制が整っていれば、計画実行のスピードも安定感も増します。
手順④実現までのステップと具体的なスケジュールを明示する
DXは長期的な取り組みになるため、どのような順序で何を実行するのかを整理しておく必要があります。具体的な工程と時期を示すことで、進捗管理がしやすくなるでしょう。
たとえば「1年目は業務の棚卸しと可視化」「2年目は基幹システムの刷新」など、フェーズごとに目的と内容を設定します。目標に向けた道筋がはっきりすれば、関係者の行動にも一貫性が生まれます。
手順⑤結果のフィードバックと改善
最後に、DXの進行状況を定期的に確認し、必要に応じて改善を行う体制を整えましょう。一度決めたビジョンも、環境や成果によって柔軟に見直すことが重要です。
たとえば、四半期ごとのレビュー会議を設ける、KPI達成率に応じて施策を見直すなどの運用ルールを設けることで、形だけのDXに終わらず、成果につながる推進が期待できます。改善の習慣が定着すれば、組織全体の成長スピードも上がるはずです。
策定したビジョンをもとにDXを成功させるポイント
DXビジョンを描くだけでは、デジタル変革は進みません。実行に移すためには、ビジョンを現場で機能させる工夫が必要です。ここでは、策定した方針をもとにDXを成功させるための5つのポイントを紹介します。
ポイント①経営層が率先して関与し全社的なDX推進の流れをつくる
DXは一部の部署に任せるのではなく、経営層が主導することが成功の鍵です。なぜなら、社内全体に影響する変革には、強いリーダーシップが求められるためです。
たとえば、経営トップがDX推進会議に定期的に参加することで、現場の意識は大きく変わります。経営陣が積極的に関与することで、全社的な取り組みに発展し、社内の足並みもそろいやすくなるでしょう。
ポイント②自社の強みや課題に即した独自のDX戦略を構築する
他社の成功事例をそのまま真似しても、必ずしも効果が出るとは限りません。自社の強みや置かれている状況に合わせて戦略を立てる必要があります。
たとえば、接客力が強みの企業であれば、対面とデジタルを組み合わせたDXが有効です。自社の特性を深く理解し、それに基づいたアプローチを取ることが、実践的な成果につながります。
ポイント③DX推進に必要な専門スキルを持つ人材を十分に確保する
DXは技術的な要素も多いため、専門知識を持つ人材の確保が欠かせません。社内にノウハウがない場合は、外部からの採用や育成も視野に入れる必要があります。
データ分析やクラウド運用の知識を持つ人材が1人いるだけでも、プロジェクトの進み方は大きく変わります。現場任せにせず、必要なスキルセットをリストアップして、計画的に人材を配置していきましょう。
ポイント④小さな施策から始めて、短期間で成果を示す流れを作る
大きなプロジェクトを一気に進めようとすると、コストや時間がかかり、途中で挫折する可能性があります。最初は小さな改善から始めることで、社内に成功体験を積み上げることができます。
「紙の申請書をデジタル化する」といった取り組みでも、現場の作業時間が減れば大きな意味を持ちます。短期間で成果を見せられれば、社員の協力も得やすくなり、DX全体の推進力が高まるでしょう。
ポイント⑤無駄のない目標達成までの効率的なプロセスを設計する
成果を出すには、ゴールまでの道筋をムリなく設計することが重要です。複雑すぎる計画では、進捗管理が困難になり、途中で軌道修正が必要になる可能性があります。
たとえば、プロジェクトを3ヶ月ごとのステップに分け、段階的にチェックする体制を作ると、問題の早期発見にもつながります。無理のない進行管理と現実的な目標設定が、DXを形にする力となるでしょう。
ビジョンを明確にしてDX推進に成功した国内企業3選
ビジョンが曖昧なままでは、現場の納得感や行動が伴わず、形だけの施策で終わってしまうリスクがあります。ここでは、経済産業省のDX銘柄2024の内容を基に、自社のビジョンを軸にDXを着実に推進し、実際に成果を上げている国内企業の事例を3社ご紹介します。
ビジョンの示し方や推進プロセスのヒントとして、参考にしてください。
“グローバルファーマイノベーター”を目指す|第一三共株式会社
第一三共は、「データとデジタル技術を駆使したグローバルファーマイノベーターの実現」をDXの中核ビジョンに掲げ、2025年度の売上収益1兆6,000億円達成を目指して変革を進めています。ビジョンの実現に向けては、3つの抗がん剤(3ADC)の価値最大化、既存事業の収益強化、新たな成長領域の探索、ステークホルダーとの共創を戦略の柱としています。
生涯スポーツ社会の実現を目指すDX戦略|株式会社アシックス
アシックスは、「誰もが一生涯スポーツに関わり、心身ともに健康でいられる社会の実現」を掲げた「VISION2030」のもと、DXを推進しています。会員プログラム「OneASICS」を中心に、製品だけでなく施設・サービスを含めた顧客接点の創出に注力しています。
経営の見える化やサプライチェーン強化、DTCシフトによる収益性の向上などが評価され、2024年には「DXグランプリ企業」に選定されました。グローバルで700名超のデジタル人材を擁し、実行体制の強さも高く評価されています。
常識を超えたメーカーへの変革を掲げるDX戦略|株式会社LIXIL
LIXILは、「デジタル化を通じてエンドユーザーに寄り添い、従業員の主体性を高め、常識を超えたメーカーへと進化する」というDXビジョンを掲げています。
ビジョン達成のために外国語対応の「オンラインショールーム」や、AIによる見積り支援機能「かんたんプラン選び」など、顧客体験を重視したサービスを展開しました。加えて、ノーコード開発や社内教育の推進により、従業員の生産性とエンゲージメントも向上させています。
まとめ
DXの成功には、明確なビジョンの策定が欠かせません。背景や課題を把握した上で、将来の姿と施策を明確に示すことで、組織全体が一丸となってDXを推進できます。さらに、戦略の方向性や推進体制、実行プロセスを段階的に整理することが、現場の混乱を防ぎ、スムーズな変革につながるでしょう。
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