企業の競争環境が激しくなるなか、営業現場では「属人化の解消」「データに基づく提案力の強化」が求められています。こうした課題を解決する手段として注目されているのが営業DX(デジタルトランスフォーメーション)です。
営業DXとは、単なるITツールの導入ではなく、データとテクノロジーを活用して営業プロセス全体を変革する取り組みのことを指します。本記事では、営業DXの定義や目的、従来の営業IT化との違い、導入ステップ、そして成功のポイントを実例を交えてわかりやすく解説します。「営業活動を仕組み化し、再現性のある成果を出したい」と考える方はぜひ参考にしてください。
営業DXとは
営業DXとは、DXを営業活動に適用し、自動化や効率化を実現する取り組みのことです。従来は顧客や取引企業に出向き対面で商談する手法が営業活動のなかでも一般化していましたが、社会情勢の変容やインターネットの普及、デジタル技術の進化に伴い、多くの企業ではITを活用した営業活動へとシフトする動きが加速しています。
営業DXの目的
営業DX推進の目的には、顧客ニーズへの迅速な対応の実現や市場競争力強化、営業活動の自動化を通じて見込まれる生産性向上などが挙げられます。
特に現代社会はインターネットやSNSの普及によって顧客の購買行動が複雑化していますが、多様なニーズに対応するためには、企業は詳細なデータ分析やAI活用を通じて個々のニーズを正確に把握し、適切な製品・サービスを提供していく姿勢が求められています。
従来ではデータの収集・分析、それらをもとにした意思決定には多くの時間と労力を必要としていましたが、営業DXによって加速度的に進めることができるため、多くの企業で導入が進んでいるといった背景があります。
営業IT化や営業デジタイゼーションなどとの違い
営業DXと混同しやすい言葉として、営業IT化や営業デジタイゼーション、営業デジタライゼーションが挙げられます。いずれも「営業活動にデジタル技術を導入する」という点は共通しますが、それぞれの概要とレベル、具体例は異なります。具体的には以下の通りです。
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項目 |
概要 |
レベル |
具体例 |
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営業DX |
・営業活動にDXを取り入れ、自動化・効率化を図る取り組み |
経営戦略 |
・AIを活用した顧客ニーズ予測 ・新たなサービス開発のサポート |
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営業IT化 |
・営業活動におけるアナログな業務をデジタルに置き換える取り組みのこと |
初期 |
・手書き日報のExcel化 |
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営業デジタイゼーション |
・物理的な情報やデータをデジタル形式に変換する技術のこと |
初期 |
・紙名刺のスキャン |
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営業デジタライゼーション |
・デジタル技術を通じて業務プロセスそのものを変革すること |
中期 |
・SFA(セールスフォースオートメーション)による営業活動の管理 |
営業DXは営業活動にDXを取り入れ、業務を効率化・自動化する取り組みを指すことから、それぞれ全く異なる目的や活用例があることをこの機会に押さえておきましょう。
営業DXの対象業務
営業DXは、日常的な営業活動を効率化、自動化するだけではなく、顧客接点をはじめとした営業活動全般をデジタル技術で支え、革新する目的があります。ここからは営業DXがどのような業務で効果を発揮するのか、具体的な業務例について解説します。
リード獲得
営業DXによってリード獲得に変革をもたらすことが可能です。これまでは電話でのアポイント取得や飛び込み営業が中心でしたが、マーケティングオートメーション(MA)ツールやSNS広告の活用によって効率よく見込み客を集客できます。また、AIを用いたデータ収集・分析を通じて従来と比べて高精度なアプローチも実現可能です。
既存顧客の管理・情報分析
営業活動において既存顧客の管理・情報分析は欠かせない業務のひとつですが、顧客管理システム(CRM)を活用すれば商談・購入といったさまざまな履歴を一元的に管理できます。一元管理したデータを分析に役立てることで、これまでは気付くことができなかった顧客の潜在ニーズまで捉えることができるでしょう。
アプローチ・商談
訪問を前提としたアプローチ・商談は、オンライン商談ツールの導入によって効率的に進められます。新型コロナウイルス感染症を機に各国で流行したZoomやGoogle Meetを活用することで、移動時間や交通費を気にする頻度が減るだけでなく、顧客や取引先担当者の都合を最大限に配慮した商談を実現できます。
契約
営業活動では契約業務もありますが、営業DXによって効率化することができます。例えば見積書や提案書はあらかじめテンプレート化する、文章作成を生成AIに任せることで作成時間を大幅に短縮できます。
また、電子契約ツールの活用によって書類のやり取りや捺印をクラウド上で完結でき、契約締結までの時間短縮につながります。
顧客満足度の調査
営業DXは、顧客ニーズ調査にも有効です。製品・サービスの公式サイトにデジタルアンケートを掲載すると、効率的にユーザーニーズを集めることができます。AIで収集データを自動分析することで企業課題の特定にもつながり、的確な製品・サービスの開発や改善に役立てられます。
営業DXを推進することで得られる4つのメリット
営業DXの推進によって、企業は以下のようなメリットを享受できます。
営業活動の効率化
営業DXのメリットは、なんといっても営業活動そのものを効率化できる点です。これまでは対面での商談が主流でしたが、その背景には移動時間や交通費といったさまざまなコストが発生していました。DXによってオンライン経由での顧客獲得を実現できるため、コストの削減につながります。
また、MAツールを通じて顧客情報の一元管理を実現できれば、顧客情報をはじめとしたデータ管理における労力も削減できます。
従業員の即戦力化
営業DXを推進することで教育基盤の強化につながり、結果的に従業員の即戦力化にも期待できます。例えば営業活動を従業員1人ひとりの経験や技術に依存していた場合、優秀な業績を残していた従業員の退職によって業績が伸び悩むだけでなく、チーム全体のパフォーマンスが低下するリスクがあります。
しかし営業DXによって営業スキルをデータとして蓄積・標準化できれば、誰でも現場で活かせるノウハウが身につき、活用・応用が可能になります。仮に新入社員が参加しても、属人的なスキルに頼ることがないため、誰もが安定した成果を出せるようになるでしょう。
データ駆動型での戦略立案
営業DXの推進を通じてデータ駆動型の戦略立案も実現可能です。従来はベテラン従業員や成績が優秀な従業員の経験や勘に依存しがちだった商談も、SFAやCRMに蓄積された顧客情報や売上データ、営業活動履歴の活用によってデータに基づいたアプローチを実現できます。適切なアプローチによってチーム全体の成績アップにも期待できるでしょう。
また、最新のデジタル技術を活用することで、データをリアルタイムで取得・分析できるため、市場や顧客の変化にも素早く対応し、常に企業・顧客にとって最適な戦略を立案できます。
顧客満足度の向上
営業活動をDX化することで、顧客との接点がオンライン・オフラインの双方で拡大するため、従来と比較してもきめ細かなコミュニケーションを可能にします。例えばデータ分析に基づいた顧客の行動予測によってタイムリーなアプローチを実現できるでしょう。
こうした取り組みによって顧客との信頼関係が深まり、結果的に顧客満足度やリピート率、顧客生涯価値の向上にも期待できます。
営業DXの導入手順
ここからは、営業DX導入にあたっての手順について解説します。
関連記事:DXの進め方完全ガイド|失敗例をもとに解決策やコツを徹底解説
現状課題の洗い出し・目的の設定
まずは企業における現状課題の洗い出しとDXで何を成し遂げたいのか目的を設定しましょう。現状課題の洗い出しには対面やオンラインMTGによるヒアリングも有効ですが、率直な意見を求めるのであればオンラインアンケートでの匿名投稿もおすすめです。
目的は企業課題をベースに、「収益を○%向上」「生産性を○%向上」のように、具体的な数値を設けることで効果測定の際に比較しやすくなります。
関連記事:【個人向け】業務効率化の目標例とは|具体的な設定手順やポイントを解説
ツール・システムの選定・導入
次に目的を達成するためのツール・システム選びを行います。下記のツール・システムが推奨されますが、企業課題と照らし合わせながら導入を進めていきましょう。
オンライン商談ツール
非対面で従業員や顧客、取引先担当者とコミュニケーションが取れるツールで、例えばZoomやGoogle Meet、Microsoft Teamsなどがあります。商談先への移動時間や交通費の削減につながるだけでなく、従業員1人ひとりの生産性向上を見込めます。
CRM(Customer Relationship Management)
既存顧客との関係構築に有効なツールで、売上向上に役立つ業務プロセスを管理することも可能です。営業部門に限らずマーケティング部門の担当者が顧客情報を収集した後、販促戦略の立案に役立てることができます。
SFA(Sales Force Automation)
商談から成約に至るまでのプロセスを一元的にカバーできる特徴を持つ顧客情報管理ツールです。営業を担当する従業員自らが商談・交渉・成約までのプロセスややり取りを記録し、営業プロセスの効率化を実現します。
MA(Marketing Automation)
マーケティング活動における自動化ツールで、見込み客に関する属性、Webサイトへのアクセス頻度、見込み度合いなどを自動判別し、営業部門での最適なアプローチを実現します。
データの整理・用意
目的の実現に最適なシステム・ツールを選定・導入したら、必要なデータを整理します。信頼性に欠ける、あるいは古い情報は、システムやツールの精度を下げる原因になります。営業DXを成功させるためには、正確かつ新しいデータを用意しましょう。
営業DX研修の実施
営業DXの実現にあたっては、必要な知識・技術を持つ人材が欠かせません。DX人材を育成・確保するには、営業DXの基本や企業課題・DXの目的を踏まえた研修を実施しましょう。仮にDX人材が不足し、研修が困難といった場合は、外部のエキスパートを頼る方法が有効です。
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効果測定・改善
営業DXを開始後は、一定期間ごとにシステム・ツールによる効果を判断するべく、効果測定を実施しましょう。システム・ツールの導入前後と比較して、商談数や成約数にどのような変化があったのかを細かく分析します。
仮に成果がみられなかった場合は、その要因を調べ、今後の課題と受け止めた上で適切な改善策を考えます。なお、DXは組織的な変革であり、短期間で成功・失敗を判断できるものではありません。そのため、PDCAを回しながら、中長期的な視点で営業活動の最適化を図ることをおすすめします。
営業DXで直面する課題
営業活動を最適化するべくDXへと踏み切るにあたっては、いくつかの課題に直面する可能性があることも視野に入れましょう。
従業員の抵抗
営業に限らず、DX推進を妨げる要因のひとつとして従業員の抵抗が課題になる場合もあります。経営層はDXの重要性や必要性について熟知している一方で、現場で活躍する従業員はそれらについて理解していないことが原因のひとつです。
経営層と現場従業員のDXに対する理解度や意識のギャップが生じていると、営業活動の効率化・自動化は困難を極めるでしょう。
コストの問題
営業DXに踏み切る際、最初からすべての課題解決を目指すと予想以上のコストが発生します。十分な予算を確保できない場合、コスト負担がボトルネックとなり、社内承認が得られないといったことも少なくありません。
効果測定の複雑化
営業DXの効果を最大限に発揮するためには、適切な効果測定が欠かせません。しかし、PDCAサイクルの回し方について調べたり、従業員1人ひとりへヒアリングを実施したり、改善項目の特定や改善のための策定を立案したりするなど取り組む事項が多岐にわたり、営業部門だけでは困難な場合があります。
営業DXを成功へと導く3つのコツ
営業DXにはいくつかの課題が潜んでいますが、こうした課題を乗り越えるためにはどのようなコツを取り入れるとよいのでしょうか。ここからは営業DXを成功へと導く3つのコツについて解説します。
目的は一点に絞る
営業DXを成功させるためには、営業部門に潜む課題を洗い出し、解決へと結びつけることが大切です。しかし、かといってすべての業務課題に対応しようとするとコストが高額になるだけでなく、効果測定がさらに複雑化してしまいます。営業DXの導入を検討する際は、具体的にどの課題から解決するか、目的を一点に絞ることをおすすめします。
また、設定した目的はチーム・部署内で共有することで目的のブレを防ぎ、共通認識のもとでDXに取り組めます。
DXに対する理解の醸成
営業DXを成功させるには、なぜDXが必要であるかを全社で共通認識として持つことが大切です。特に変革の中心となる営業部門の従業員1人ひとりがDXの目的やメリットについて理解できるよう、丁寧な説明や教育を実施し、納得を得ることが欠かせません。
DX推進部門がすでに設置されているのであれば、DXに関する相談窓口とすることで新システムやツール、業務プロセスに対する抵抗感を減らし、スムーズな導入・定着を図れるでしょう。
必要な情報は各部署に共有する
営業DXは、営業部門だけで完結するものではありません。IT部門やマーケティング部門、DX推進部門などさまざまな部署が密接に連携し、情報共有することが大切です。部署間の壁を取り払い営業DXの目的や改善点を周知する姿勢を徹底することで、DX推進もスムーズに進められるでしょう。
日本企業における営業DX導入事例
ここでは営業DXを成功させた3つの企業事例について解説します。
キヤノンマーケティングジャパン
キヤノンマーケティングジャパンでは、営業生産性の向上を図るべく、デジタルを活用した業務改革を推進しました。
なかでもインサイドセールスの強化と顧客データの一元管理に注力したことで顧客との接点創出から商談・契約・アフターフォローまでを効率化でき、対面リソースなどの提案活動を中心としたメイン業務に集中できるようになりました。
参考:BtoB営業のためのDX推進およびインサイドセールスのポイント
株式会社LIFULL
株式会社LIFULLでは生成AIを活用した営業DXを実施し、半年間で約31,600時間の業務時間を創出しました。特に多くの従業員が使用するプロセスに生成AIを組み込んだことで、自然な形で活用頻度を高めることに成功しています。
例えば社外コミュニケーションの多い部署にはメールチェック機能や営業日報、メール作成支援などを社内で構築・提供し、従業員の生産性向上にもつながっています。
参考:LIFULL、生成AIの社内活用を推進し、過去最高ペースとなる半年間で約31,600時間の業務時間を創出
レノボ・ジャパン合同会社
レノボ・ジャパン合同会社では顧客との関係強化と営業活動の効率化を図るべく名刺管理・営業DXサービスを導入・有効活用し、名刺情報のデジタル化を実現しました。顧客情報の一元化によって従業員はいつでも最新の顧客情報にアクセスできるようになりました。
参考:顧客情報の一元化、業務効率の改善によって ワークスタイル変革のさらなる加速を目指す (レノボ・ジャパン合同会社)- 導入事例 – Sansan – 営業DXサービス
まとめ
営業DXはデジタル技術を導入するだけでなく、データとの併用によって営業活動そのものを抜本的に変革し、最適化を図る取り組みです。デジタル技術とデータとの組み合わせによって、営業活動の効率化や従業員の即戦力化など、さまざまなメリットに期待できます。
企業担当者の方は、本記事を参考にしながら営業DXによる営業活動の最適化を目指してみましょう。その際、DX人材の確保を検討される場合には、ぜひお気軽にPeaceful Morningへお問い合わせください。




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