近年あらゆる業界で働き方改革が進み、RPA、OCRなどのツールを活用した業務改善が求められています。
本記事では2022年8月18日時点の医療現場におけるRPAの活用について紹介します。医療現場の現状と課題、導入事例についてお伝えするため、医療に携わっている方、自動化について興味がある方は是非ご覧ください。
目次
医療現場における働き方改革の現状
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そもそも働き方改革とは何でしょうか。働き方改革とは、「長時間労働の是正」「柔軟な働き方が出来る環境整備」など大きく7つの項目で行われている政府主導の労働環境の見直しのことです。計画が2016年に始まり、2019年からは関連法案が順次施行され、耳にすることが増えました。
このように、既に施行から3年以上経過している働き方改革ですが、実は医師や看護師を対象とする医療現場の働き方改革は2024年に開始が予定されている状態で、現時点(2022年)では施行されていません。
しかしながら、現場の状況は深刻であり、元々懸念されていた人材不足や少子高齢化に新型コロナウイルスによるパンデミックが拍車をかけ、負担が年々重くなっています。そんな中、代替可能な単純作業、事務業務を自動化ツールに置き換えることで、人手不足を解消しようという動きが広まっています。
RPAと医療現場に導入するメリットとは
RPAとは、「Robotic Process Automation」の略称で、ソフトウェアによるロボット化でホワイトカラーの仕事を効率化する業務自動化技術、またはその業務自動化ツールやソフトウェアロボットそのものを意味します。
日本語でも「RPA(アールピーエー)」と呼ばれ、「AI→人工知能」のように広く使われる訳語はありません。また、ソフトウェア化されたロボットのことをデジタルレイバー(Digital Labor)と呼ぶこともあります。
ロボットというと、人型のロボットなどを思い浮かべる人がいますが、RPAはPC内やサーバー内で動くソフトウェアだと考えてください。
18世紀半ば〜19世紀の産業革命以降、職人(ブルーカラー)が手作業で行なっていた業務が産業機械(ロボット)により代替され生産性が向上してきたように、現代ではRPAを用いたホワイトカラー業務の自動化によって生産性の向上が進んでいます。
実際に、2020年1月に行われたあRPA国内利用動向調査においては、年商1,000億円以上の大手企業の51%がRPAを導入しています。業界や、会社規模により差はあるものの、労働人口の増加が見込めず、働き方の見直しが進む限りは今後も増加傾向が続くでしょう。
先ほど、説明した働き方改革の進んでいない医療現場の現状ですが、蓋を開けてみると、「電子カルテの記録」や「診断書の作成」といった専門知識が必要でない業務が含まれています。こういった単純、繰り返しの多い作業はRPAが得意としており、代替することで大きな業務削減を実現できます。
また、RPAの導入によって得られるメリットは労働時間の削減だけではなく、ヒューマンエラーの防止やスピードの向上などが挙げられます。これらによって労働環境が整うことで、医師、看護師としての専門知識が必要な仕事に割く時間が増え、医療現場の質が向上していくのです。
医療現場におけるRPAの導入事例4選
次に医療機関の導入事例を紹介します。すでにRPAを導入している医療機関から、対象業務や導入のきっかけを学び、自院と照らし合わせることで、自動化・効率化のヒントを得てください。
①倉敷中央病院
倉敷中央病院ではNECの提供するRPA「NEC Software Robot Solution」を活用して医療現場の働き方改革に取り組みました。
「医師の2024年問題」など、医療現場の人手不足が表立って問題視される前から働き方改革に取り組んできた倉敷中央病院ですが、システム間連携が困難な業務の対応に悩まされていました。
病院内で使用されている医療システムは動作環境の要件が厳しく、他システムとの連携が認められていません。そのため、転記作業が発生してしまいます。倉敷中央病院ではその転記作業をRPAで自動化し、年間960時間の業務時間の削減に成功しました。
文書管理システムで作成した術前評価表を手術部門システムに転記する作業は、その好例です。午後の業務終了後、1日30件程度の情報を翌日までに転記しておく必要性があるのですが、作業は4時間以上かかるため、時間外業務が常態化していました。「この転記作業をロボットで自動化したことにより、1日約4時間の人的作業が不要になり、年間で約960時間の業務時間削減を実現しています。引用:https://jpn.nec.com/softwarerobotsolution/case/kchnet/index.html
また、他にも患者データの自動抽出・保存、患者退院時のサマリ作成補助などの業務を自動化しました。今後はRPAの開発・保守を担う専任チームを結成することも視野に入れ、医師や看護師を始めとする医療現場の業務における自動化適用領域の拡大に取り組んでいく考えです。
参考:https://jpn.nec.com/softwarerobotsolution/case/kchnet/index.html
②東京歯科大学市川総合病院
事務職員の業務をRPA に任せ、医師事務補助の範囲を拡大することで、すべての医療従事者を支援するだけでなく、 医師の見落とし等による医療ミスを防ぎ、医師の働き方改革に貢献しています 。今後は医師等診療部門、看護部門およびコメディカル部門などの部門を「RPA」を通じて蜜に連携し “チーム医療”を実現 させていくことで、医療の質と安全の向上を目指します 。引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000047912.html
東京歯科大学市川総合病院では医師・看護師を含む医療従事者の働き方の現状を改善するために2018年よりRPAの導入を開始しました。
事務部門にRPAを導入し、効率化・自動化を行うことで、医師・看護師が担っている書類作成を事務部門に移管し、医療現場の労働環境改善、医師・看護師が医療行為に従事できる体制構築に取り組んでいます。
具体的には、医療情報システムから放射線科までの広い範囲において看護日誌の統計や、入退院患者の管理、院外の処方箋受付作業をRPAで代替し、年間業務削減時間は約2,453時間に及びました。今後は部署間でのRPA連携、診療場面での運用、病院間の連携も検討されており、経済効果の拡大、医療の質の向上が期待されています。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000047912.html
③奈良県総合医療センター
奈良県七条西町にある奈良県総合医療センターは奈良県の北和地域の高度旧正規医療を提供する基幹病院であり、地域の医療工場や医療スタッフの教育に力を入れています。
奈良県総合医療センターは医療従事者の超過勤務を解消、そして進歩する医療技術を習得する時間を確保するために、診療や検査以外を占める医療情報のデータ化や検査リストの作成といった定型業務の自動化に取り組むことを決め、既存の医療用システムとの兼ね合いから『Winactor」を選択し、導入しました。
導入に際して、対象業務を選定したところ、事務職だけでなく医療職を含めた76業務でRPAが活用できることが明らかになり、その中でも効果の大きい7業務に導入を行いました。
対象業務選定のポイントについて知りたい方はこちら
その中の1つが臨床検査部のリスト作成です。
臨床検査部のリスト作成も7業務のひとつで、超音波検査を受ける患者さん全員の前回所見を過去の検査結果から見つけリストにまとめるというものです。以前は2〜3時間かかっていましたが、「WinActor」はわずか10分程度でミスなく正確にリストを作成してくれます。「WinActor」による時間削減効果を試算したら7業務で年間約1,000時間にもなるという結果がでました。引用:https://www.ntt.com/business/case-studies/nara_hp.html
RPAが代替することによって、浮いた時間をロボットでは対処できない患者さんのケアや新規の医療技術習得に割くことが可能になり、医療の質の向上に繋がっています。
参考:https://www.ntt.com/business/case-studies/nara_hp.html
④信州大学医学部附属病院
信州大学医学部附属病院では、組織内に設置されたRPA推進室主導の下UiPathを導入し、年間1,448時間の業務削減を達成しました。
導入にあたっては事務職員への指導はもちろん、データを扱う頻度の高い部署の医師や看護師に向けてもハンズオンセミナーが開催されました。医療業務の自動化における問題点の1つが電子カルテの取り扱いですが、厚生労働省との取り決め上操作ができないことを踏まえつつ、カルテから出るデータを用いた医事会計システムの修正などにRPAを活用し、多くの時間を創出してきました。事務業務においても、医療用ガウンや手袋の在庫を厚生労働省のシステムに報告する業務にRPAを導入することで経営管理課の業務を丸ごと代替し、入力の省略化と正確性を実現しました。
RPA導入時の留意点
医療現場におけるRPAの活用事例を知り、導入イメージを掴んでいただけたでしょうか。続いては、実際に導入を進めるにあたって注意しなければいけない点についてお伝えします。
①RPA導入は目的ではなく手段であることを意識する
工場などの生産現場で使われる業務改善方法としてECRSの原則というものがあります。
このECRSの原則は、「E(Eliminate):排除、C(Combine):結合、R(Rearrange):再配置、S (Simplify):単純化」の4つの改善の視点にもとづき、改善部分を洗い出すことを表しています。
ツールの導入を進めていくことは、業務効率化のためにECRSを達成することです。つまり、ツール導入は、業務を洗い出す中で無駄なものを取っ払うことと同じなのです。導入することだけに拘ってはいけません。
RPAの場合、すべての業務をRPAを用いて自動化することを意識してしまうと、本当にRPAを必要とする業務ではなくても、RPA化を強行してしまい結果的に効果が薄くなってしまいます。あくまでRPAは目的ではなく手段です。もし適切に判断した結果「導入しない」という選択肢を選んだ場合でも、業務の可視化を行うことで問題点が浮き上がり、改善すべき点を見つけられたことは企業にとって大きな意義があります。
②スモールスタートを意識する
人員やコストをかけた分だけ導入効果を期待してしまいがちですが、最初から「業務時間を何千時間減らすぞ!」という大きな結果を求めることは、失敗につながります。小さな業務を自動化して組織内に広げ、そこから様々な業務に広がって行くというイメージを持っていただきたいです。何でも出来る万能ツールは存在しません。
このことを認識した上で、身近にある作業で小さなものから自動化を進めていくことが非常に重要となってきます。1つの業務の自動化・効率化を成功体験とすることで社内の他の業務でも同じように自動化出来るものはないか、少し応用すればもっと大規模な業務を自動化出来るのではないか、というように組織内の自動化を広めましょう。このプロセスを経ることで、結果的に大きな効果が見込めます。
③必要に応じて専門家を頼る
RPAを導入する際には外注と内製の2つの場合があります。外注の場合はRPAの専門家を採用し、社内に常駐してもらいますが、中小企業などはコスト面で外注が難しい場合は内製のケースが多いです。内製の場合は、他の業務と兼業する形でRPAの担当者を決めますが、ほとんどがRPAに関する知識が乏しく、社内で育成していくことが必要になります。
その際に大事なのがRPA専門家を上手く活用していくことです。RPA専門家は、RPA導入においてどんな場面で失敗することが多く、どのようなRPA導入をすれば効果が高く活用できるかをよく理解しています。内製を選択した場合は上手く外部のRPA専門家を活用していくことがRPA導入を成功させていく秘訣です。
また現在はRPA関連サービスの数も年々増加しており、一言でRPAに関するサービスと行っても導入支援から学習支援など自身の置かれている段階によって頼るべきサービスが変わります。
当社では、RPAの導入を検討している方やRPA導入後に悩みを抱えている方がそれぞれの課題に沿って適切なサービスを選択するために毎年RPA業界カオスマップを作成しています。
無料でダウンロードが可能なので、興味のある方は是非ご覧ください。
業務自動化で働きやすい環境づくりを
医療現場におけるRPAの活躍イメージ、そして導入に際しての留意点を知っていただけましたでしょうか。RPAは今まで悩まされることの多かった事務作業を自動化し、時間を創造するために無くてはならない存在ですが、特性や対象業務との相性を理解して導入しなければ思うような費用対効果が見込めません。見切り発車にならないよう、注意すべき点を心に留めて導入に向かって一歩踏み出してみてください。
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