大規模言語モデル(LLM)は主にクラウド環境で使用されていますが、近年ではオンプレミス環境で運用可能なローカルLLMと呼ばれる大規模言語モデルが誕生しています。ローカルLLMは、データセキュリティの強化を図りながら各部門で柔軟に利用できる特徴を持つため、多くの業務課題を解決できる技術として多くの企業からも注目を集めています。
そこで今回は、自社環境で安全性に優れたLLMの運用を検討される方へ、ローカルLLMの特徴とクラウド型LLMとの相違点、メリットやデメリット、構築方法について解説します。
ローカルLLMとは
ローカルLLMとは、企業内サーバーや社内端末などで直接実行・運用できるLLMのことです。インターネット接続が不要なためオフライン環境での利用が実現し、情報の漏洩やデータの盗難被害に遭うリスクを大幅に減らすことができます。
クラウド型LLMとの相違点
クラウド型LLMとの違いは運用環境です。クラウド型LLMはスケーラビリティが高い一方で、インターネット回線が利用できる環境が必要です。その背景には膨大なデータ処理やトレーニングをリモートサーバーに依存していることが挙げられ、設計上インターネット接続が前提となるためです。
一方、ローカルLLMは自社サーバーと社内端末で直接運用でき、インターネットがつながっていない場所でも使用できるなど、利便性に優れていることが違いとして挙げられます。モデルの学習やトレーニングも社内運用に向けて行うことが多く、セキュリティ水準が高まるほか、漏洩リスクの低下にも期待できます。
RAGやファインチューニングとの関係性
RAGやファインチューニングはクラウド・ローカル双方のLLMにおいて優れたデータ抽出に欠かせない技術といえます。RAGは社内ドキュメントやデータベースを外部知識としてLLMに連携し参照させ、高精度な回答を生成するための技術です。一方ファインチューニングは使用環境や目的に合わせて自社LLMに追加学習を施すことを指します。
ローカルLLMのメリット
ローカルLLMにはさまざまなメリットがありますが、そのなかでも特筆したいメリットは下記の通りです。
インターネット環境に依存しない
ローカルLLMはインターネット環境を必要としないため、オフライン環境でも使いたいときに利用できます。データ処理やAIモデルの実行は社内サーバーや社内端末で完結するので、インターネット環境に依存しない点は大きなメリットといえるでしょう。
日本は地震大国であることに加え近年では自然災害によってインターネット回線の利用が制限されたり停止したりするケースが頻発しています。こうしたなかでもインターネット回線にとらわれず利用できる点はありがたい特徴と考えられます。
社内向けモデルにカスタマイズできる
社内用として独自のモデルにカスタマイズできる点もローカルLLMならではのメリットです。社内データを取り込めば、常に最適化された独自モデルを構築できるためです。社内向けモデルを運用できれば、サポート業務やドキュメント処理といった細かな作業を省くことにつながり、組織的な効率化を実現できます。
リアルタイム処理の実現
社内サーバーや個別デバイスで運用できる特徴により、データのリアルタイム処理に対応している点もメリットです。特にリアルタイムでのやり取りが求められるチャットボットもスムーズにやり取りができるため、業務効率の向上に期待できます。
情報漏洩リスクの軽減
クラウド型LLMの場合、インターネット接続を通じて運用するため、機密情報の提示に抵抗を持つ企業が少なくありません。一方ローカルLLMは、社内サーバーや個別デバイスでデータ処理を行う特徴から、外部にデータを漏洩する危険性を最小限に抑えることができます。
特に業界特有の情報を提示する必要がある場合においてローカルLLMは、セキュリティ対策としても有効と考えられます。ただし、ローカルLLMを利用する場合は、あらかじめ社内サーバーや個別デバイスに適切なセキュリティ環境を構築する必要があります。
長期コストの削減
クラウド型LLMを使用した場合、トークン数に応じた従量課金制を導入していることが多く、使い方次第ではコストが高額になりがちです。一方ローカルLLMは初期費用こそかかるものの、クラウド型LLMと比べて追加コストを抑えやすい傾向があります。利用頻度が多いことが導入前からある程度決まっている場合、ローカルLLMの導入検討をおすすめします。
ファインチューニングが可能
ローカルLLMはファインチューニングの実施によって業界特有の用語やニーズ、タスクに適合したモデル構築を実現できます。例えば金融業界や医療業界、教育業界など多様な業界の情報もファインチューニングを実施すれば、専門知識を取り入れたモデルに最適化され、業務効率の向上に期待できます。
ローカルLLMのデメリット
ローカルLLMにはいくつかのデメリットも存在します。具体的には下記の通りです。
保守運用コストや導入時の手間が掛かる
ローカルLLMはファインチューニングに対応し、あらゆる業界にモデルを最適化できる特徴がありますが、その反面、保守運用に時間やコストがかかります。導入にあたってはあらかじめ自社サーバーや個別デバイスに堅牢なセキュリティ環境を構築する必要があることに加えて、ローカルLLMに精通した人材の確保が欠かせません。
こうした理由から、社内向けLLMの構築を実施する上では、デジタル人材の育成・確保を済ませておくことが推奨されます。
初期コストが高額
ローカルLLMの実装にあたっては、自社独自のAIモデル開発とほど近いために、初期コストが高額になる場合もあります。例えばローカルLLM構築に求められるハードウェアやパソコン、サーバーにセキュリティソフトの用意は避けられません。社内向けローカルLLMを構築する上では、予想コストを算出後、費用対効果を判断することをおすすめします。
初期設定が複雑
ローカルLLMを社内に実装する際は、モデルのトレーニングを実施する必要があります。各部門で業務効率化を図るモデルを構築するのであれば、ファインチューニングを実施する必要も出てくるでしょう。LLMに精通したデジタル人材が不足したまま実装に取り掛かれば、運用開始までに多くの時間やコストを費やす恐れもあります。
ローカルLLMはクラウド型LLMと比べて専門知識を要するモデルであることから、導入検討を進める上ではデジタル人材をどう確保するかを検討しておくことが大切です。
ローカルLLMの課題は「デジタル人材」の確保・育成
ローカルLLMを導入する上で大きな課題となるのは、先述している通りデジタル人材の確保・育成と考えられます。社内にLLM知識を有する人材が在籍しているのであれば、スムーズな導入・運用が実現できるかもしれません。しかし、ある部門でローカルLLMにトラブルが生じた場合、迅速に対応できるリソースは確保できるでしょうか。
近年の日本は、少子高齢化社会の進行によって各業界で人手不足が深刻化しています。ただでさえ人手不足ななかで、デジタル人材を確保することは、DX推進を目指す企業が増えているなどの理由によって確保は困難と考えられます。
こうした問題を総合的に解決するためには、デジタル人材の確保・育成に有効なサービスを活用し、迅速に進めていくことをおすすめします。Peaceful Morningでは、RPA・AIの導入から開発、運用まで、プロのエンジニアが伴走型でサポートする「Robo Runner」を提供しています。
無制限のチャットサポートやWebミーティング、豊富なeラーニングコンテンツを通じて、主要ツールの習得から実際の業務活用まで、企業や部署のDX推進を全面的にサポートします。現に経済産業省でも、企業のDX推進にあたっては外部パートナーの活用が推奨されています。
社内向けのローカルLLMを実装し、適切な運用を目指したい方は、この機会にお気軽にPeaceful Morningまでお問い合わせください。
ローカルLLMの構築方法
ここからは、ローカルLLMを社内構築する方法について解説します。どのような手順を踏む必要があるのか、この項で押さえておきましょう。
目的・要件を定義する
ローカルLLMを構築する際は、最初に導入の目的や要件を定義しましょう。目的や要件を定めていないと、モデル設計において方向性が見えず運用が難しくなってしまいます。「社内ドキュメントの検索効率化」「業務効率化」など、具体的な目的や要件を定め、実装につなげましょう。
適切なオープンソースLLMの選定
目的や要件を定義した後は、使用するオープンソースLLMを選定します。LLaMA 3やMixtral、Qwenなど、多種多様なモデルが存在し、それぞれで得意分野が異なります。
- 目的や要件
- 求める性能
- サポート言語
- トレーニングデータの種類
上記項目を参考にしながら選定することで、導入後のミスマッチを防ぐことができます。
インフラストラクチャの導入
選定したローカルLLMを運用するため、次は適切なハードウェアやソフトウェア、計算リソースといったインフラストラクチャの用意を進めましょう。サーバーを選定する際はVRAM容量やネットワーク帯域を考慮することで運用時のトラブルを最小限に抑えることができます。
データの準備
次に、ローカルLLMの性能を最大限に引き出すべく、適切なデータを準備しましょう。学習データとしては下記のようなものが挙げられます。
- 社内ドキュメント
- チャットログ
- 業務マニュアル
- 製品およびサービスに関する資料
- FAQ
収集したデータはクレンジングを実施し、ノイズや偏りを排除しておきましょう。クレンジングによって不要なデータを取り込む可能性が減り、モデルの性能を高めることができます。
トレーニングの実施
必要なデータを集めクレンジングを済ませた後は、実際にローカルLLMに読み込ませます。トレーニングはローカルLLMの性能を左右する項目です。プロンプトに対して最適解に近いデータを抽出できるまで、必要なデータを可能な限り読み込ませていきましょう。
性能の評価・技術的改善の実施
トレーニングを済ませた後は、モデルの評価・改善を実施します。事前に評価指標を定めておくことで、どの程度の改善が必要なのか、どのデータが不足しているのかが判断しやすくなります。
性能評価を実施した際、特定の業務プロセスに乖離が生じる場合もあるでしょう。期待値に達していないときは必要とされるデータを読み込ませ、再度トレーニングを実施することをおすすめします。
ローカルLLMの活用例
ローカルLLMの導入によって各業界各業務の効率化を実現することができますが、具体的にどのようなシーンで有効なのでしょうか。ここからは3つの活用例について解説します。
社内用チャットボットの導入
ローカルLLMの誕生によって社内向けチャットボットを運用可能です。構築が実現できれば社内の問い合わせ業務を効率化・自動化できます。また、顧客から届くことの多い問い合わせや相談内容をまとめたデータと適切な回答を合わせて取り込めば、カスタマーサポートの自動化も実現できます。
AIエージェントの実装
ローカルLLMの活用によって社内タスクに適合できるAIエージェントも開発できます。例えば会議内容の自動要約や報告書の作成支援などは、社内向けAIエージェントの実装によって実現可能です。AIエージェントの詳細については以下の記事で解説しています。併せてご覧ください。
関連記事:AIエージェントとは?生成AIとの違いや仕組み、メリットを解説
教育・研修用AIシステムの実装
ローカルLLMの活用によってパーソナライズ化した教育・研修用AIシステムの実装も可能です。これまでの教育・研修ツールは均一的な内容を学習者に提供することが一般的でしたが、ローカルLLMを搭載したAIシステムであれば学習者の能力や進捗、興味に応じた学習プランを提供できます。
例えば数学を苦手とする生徒に特化した問題集や解説を自動生成したり、日本語を学ぶ外国人の能力に合わせた学習プランを提供したりなどです。このようにローカルLLMは今や企業の業務に留まらず、多種多様な業界・シーンで応用することが可能になっています。
まとめ
ローカルLLMはLLMの利活用を検討する企業にとって懸念になりがちな情報漏洩リスクを低減し、セキュリティを確保しながら業務の効率化・自動化を実現できる頼もしい存在です。初期費用や運用コスト、デジタル人材の育成・確保における課題はあるものの、RAGやファインチューニングを実施できれば、自社に最適化されたAIを開発できます。
課題やデメリットはありますが、費用対効果と照らし合わせながら熟考することをおすすめします。社内リソースでの実装が難しい場合には、Peaceful Morningへお気軽にご相談ください。



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