近年のデジタル技術はめまぐるしく発展しており、生成AIをはじめとしたデジタル技術を活用し、業務の効率化を図る企業が増加しています。社内の業務効率化を目指す際、AIの導入を検討されるケースが多いですが、生成AIやAIエージェントなどAIにもさまざまな種類があり、どのような役割や使い分けができるのかについて気になる方は多いでしょう。
この記事では、AIエージェントの概要と生成AIとの違い、メリットや活用例について解説します。AI導入を機に組織のビジネス変革へとつなげたいDX推進担当者の方やIT企画担当者の方はぜひ参考にしてください。
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AIエージェントとは
AIエージェントとは、ユーザーの代わりに目標達成に向けた最適な方法を自律的に選択し、タスクを実行する技術のことです。従来のAIではユーザーの指示に基づいて応答したりコンテンツを生成したりする「受動的」だったのに対し、AIエージェントは自律的、そして能動的な特徴を持っているといった特徴があります。
生成AIとの違い
AIエージェントと混同されやすいAI技術のひとつに生成AIがありますが、こちらはユーザーが文章や画像、動画などのコンテンツを生成する際、プロンプトと呼ばれる指示文を提示した上で新たなモノを生成できるAIです。一方AIエージェントは、生成AIの技術を踏襲しつつも、ユーザーの目標達成に向けて自律的に行動できるといった違いがあります。
生成AIが情報・コンテンツを作り出せる道具だとすれば、AIエージェントは目標達成に適した道具を使いこなせるシステムといえます。
AIエージェントの特徴・仕組み
AIエージェントの特徴・仕組みは下記の通りです。
特徴
AIエージェントには自律的かつ能動的という特性があるため、タスクの自動化や環境の変化へ適応できる特徴があります。また、ユーザーの目標達成に向けて適切な方法を常に選択できるよう、継続的な学習能力があることも特徴に含まれます。
仕組み
AIエージェントの仕組みは以下4つの要素を連携させ、ひとつのステップとして繰り返しながらユーザーの目標達成を目指します。簡単な概要は下表の通りです。
項目 |
概要 |
環境認識機能 |
・AIエージェントが活動する空間・状況 ・現実世界と仮想空間内を指す |
センサー機能 |
・環境から情報を取得する手段 ・人間でいう目や耳のようなもの |
意思決定メカニズム |
・取得した情報を軸に目標達成において最適な選択をするメカニズム ・人間でいう脳にあたる |
アクチュエーター |
・AIエージェントが環境に対して行動を起こす手段 ・ロボットアームの操作といった物理的装置のほか、デジタル空間を介した指示を送ることなどが挙げられる |
詳細については次項で解説します。
AIエージェントにおける4つの要素
ここからはAIエージェントにおける4要素の詳細について解説します。
環境認識機能|活動する空間・状況
AIエージェントの要素のひとつである環境認識機能は、システムがユーザーの目標達成のために動作する際の基盤を指します。この機能によってAIエージェントは周囲や得た情報を正確に捉え、最適な行動の取捨選択や目標達成を可能にします。
環境認識機能では、物理的な現実世界とデジタル空間の双方で行われており、一例としては物流業の配達状況やトラックの稼働状況など物理的な情報収集が挙げられます。デジタル空間であれば、ECサイト内でのユーザーの行動・購入履歴、パターンや自社ショップの在庫状況などがあります。
なお、環境認識機能は従来のAI技術のようにデータ収集だけを特徴とするわけではありません。例えば、得た情報を基に環境独自のパターンや傾向を見つけ、状況への理解を深めます。この自律的な行動によって、従来は問い合わせに対する対応のみだったのに対して、問い合わせた顧客ごとの感情や緊急度までを考慮した対応が実現します。
センサー機能|情報を取得するための手段
センサー機能は、環境認識機能から必要な情報を取得する役割を担っています。カメラやマイク、温度・湿度センサーや加速度センサーといったさまざまな物理的センサーと、APIやデータベースを通じて企業のシステムなどから必要なデータを取得するデジタルデータ収集の2つで構成されています。これらを統合的に用いることでさまざまな情報取得が可能になります。
意思決定メカニズム|最適な判断におけるメカニズム
意思決定メカニズムは、AIエージェントにおける最適な判断に対するもので、高度な機械学習技術を用いて行われています。強化学習やディープラーニング、大規模言語モデルといった先進技術の組み合わせによって、従来のAIと比べてもより人間に近い判断能力を実現します。
アクチュエーター|環境に対する手段
アクチュエーターは、AIエージェントのなかでも実行を司る要素です。物理的な動作に限らず電子的な処理・実行までと幅広い分野での実行能力を持っています。アクチュエーターが優れているほど、企業の業務効率化に期待できるといえるでしょう。
AIエージェントの種類
ここからはAIエージェントの種類について解説します。簡単な概要は下表の通りです。
項目 |
概要 |
ルールに基づいて行動できる反応型 |
事前に定義されたルールに基づき行動する |
状況の変化に順応できるモデルベース型 |
環境状態をモデルにして状況に応じた行動を選択する |
目標に対して最適な行動ができる目標ベース型 |
設定された目標遂行のために最適な行動を選択する |
目標達成以外にも対応できる効用ベース型 |
目標達成に留まらず行動の効果・満足度の最大化まで行う |
時間・経験と共に自己改善できる学習型 |
学習・自己改善を通じて性能が向上する |
下位エージェントと協力して作動する階層型 |
いくつかの下位エージェントと協力しながら動作する |
各エージェントの詳細について見ていきましょう。
ルールに基づいて行動できる反応型
反応型はごく一般的なAIエージェントのひとつで、ユーザーから提示されたルールに基づいて行動する特徴を持ちます。一例としては、社内用チャットボットなどが挙げられます。
状況の変化に順応できるモデルベース型
モデルベース型は、ユーザーからのルールへの反応に限らず、周囲の環境に応じた行動ができるAIエージェントです。例えば生産ラインにおいて、センサーデータを基に各設備の状態を把握し、運転条件を自動調整するシステムなどがあります。
目標に対して最適な行動ができる目標ベース型
目標ベース型は、ユーザーが設定した目標に対して最適な行動ができるAIエージェントです。例えばWeb面接のスケジュールを立てる際に、企業・応募者の双方にとって最適な日時を見つけ出す仕組みなどが挙げられます。
目標達成以外にも対応できる効用ベース型
効用ベース型は、目標達成に留まらず、ユーザーの行動における効果、満足度を最大化するための手法を選択できるAIエージェントです。例えば金融市場のAIトレーダーなどが挙げられます。
時間・経験と共に自己改善できる学習型
学習型は時間の経過と共に性能が上がるAIエージェントです。自己改善によって状況・ルールに対する良し悪しが判別できるので、カスタマーサポートでは過去の問い合わせ事例から学習し、よりユーザーニーズに沿った回答が行われています。
下位エージェントと協力して作動する階層型
階層型は、複数の下位エージェントと協力しながら最適な行動を目指すAIエージェントです。大規模かつ複雑な問題やタスクを効率的に処理する能力があるため、生産・製造ラインや物流システムで活用されています。
AIエージェントのメリット
AIエージェントには下記のようなメリットがあります。
業務効率化・コスト削減
AIエージェントの活用によって業務の効率化・コスト削減を実現可能です。定型的・反復的なデータ入力やレポート作成などは、AIエージェントによって自動化できます。従業員は、人間でなければ対応できない作業やクリエイティブなど価値の高い業務に従事できるようになり、業務の効率化をはじめ人件コストの削減、従業員配置の最適化につながります。
顧客体験の向上
AIエージェントの活用によって顧客体験の向上にも期待できます。AIエージェントの特性は、従来のAIとは違い、学習や自己改善などを通じて最適な手法を見出しユーザーの目標達成を行うことです。そのため、各業務・分野の詳細なデータを読み取ることで、ユーザーの潜在ニーズまでを先読みした手法を選択できます。
例えばユーザーの行動・購入履歴を中心としたデータを読み取れば、ニーズごとに最適化された商品・サービスの提供が可能になります。
データ解析
従来のAI技術を踏襲しているからこそ、データ解析もより効率的に行えます。従来のAIでは困難としていたビッグデータの解析も、高度なアルゴリズムを搭載したAIエージェントであれば迅速に処理・分析できます。企業であれば市場調査や競合分析に、金融機関であれば信頼性の高い株価予測が可能になるでしょう。
意思決定の強化
AIエージェントによる最適な目標達成は、収集したデータを基にして行われます。膨大なデータをリアルタイム処理できるAIエージェントならではの能力によって行われるため、従来のAIよりも意思決定の精度が向上しているというメリットもあります。
なかでもリスク管理に向けた活用は高い注目を集めており、過去の販売データやSNS、経済指標など多角的なデータを収集・分析し、これまでのAI手法との掛け合わせることによって、高精度な需要予測を可能にします。この特徴によって在庫数や生産計画の最適化を実現できます。
AIエージェントの活用例
AIエージェントは下記のようなシーンで活用されています。
業務・作業の自動化
AIエージェントの利活用によって業務・作業の自動化が実現可能です。定型的・反復的な作業に限らず、状況によって適切な判断を要する非定型業務までも可能になるため、企業生産性の向上に期待できます。例えばAIエージェントが社内外の問い合わせに24時間対応できるようになれば、オペレーターはより高度な判断を伴う業務に配置できます。
予測分析
リアルタイムで膨大なデータを収集・分析できるAIエージェントによって、ビジネスシーンにおけるさまざまな意思決定のサポートにも期待できます。時期やユーザー属性などあらゆるデータを読み込ませれば、データを基に季節ごとで売れる商品を必要な数だけ仕入れることができます。
カスタマーサポート
顧客からの商品・サービスに関する問い合わせや要望、社内従業員からの自社システムに関する問い合わせや各作業に対する質問などは、チャットボットや音声アシスタントへ代替可能です。比較的届くことの多い問い合わせ内容であれば、あらかじめ回答内容に追加しておくことで、24時間いつでも顧客・従業員への対応を行うことができます。
特に、これまで届いた問い合わせのなかでも緊急度の高い内容は、事例を基に優先的に最適な回答を提供するため、顧客体験の向上にもつながります。
バーチャルアシスタント
AIエージェントの一例としてはバーチャルアシスタントも挙げられます。スケジュール管理やメール・ドライブの整理など、日々行われるさまざまなユーザーのタスクを自動化することで、より快適で豊かな生活のサポートが可能になります。
AIエージェントの注意点
AIエージェントの利活用にあたっては下記の注意点に留意しましょう。
セキュリティ対策
AIエージェントの膨大なデータを分析できる特徴を活かして個人情報や機密情報を取り扱うシーンが増えた場合、同時に情報漏洩リスクが高まる点に注意しましょう。各情報を取り扱う従業員をチーム・部署で限定する、データの暗号化や二段階認証を実施するなど、AIエージェントの導入と併せてセキュリティ対策も万全に整えておきましょう。
ハルシネーションリスク
AIエージェントは、従来のAI技術も踏襲しています。そのため、収集したデータの内容によってはハルシネーションが起きる可能性がある点にも注意が必要です。例えば、正確性に欠けた情報をAIエージェントに読み込ませた場合に、顧客や従業員に対して誤った情報を提供し、大きなトラブルを招く可能性があります。
ハルシネーションリスクに対してはAIをはじめとしたデジタル技術に精通した専門家からサポート・アドバイスを受けるなどし、誤情報の発信・提供から企業を守る環境構築が大切です。
人材育成が伴う
AIエージェントの利活用においては、技術的・倫理的・実用的な面での課題があることにも留意しましょう。例えば技術的・実用的な部分として、AIエージェントの導入・運用・管理においてAI人材が不可欠です。育成あるいは採用などを通じて確保するなどの取り組みが事前に必要になります。
また倫理的な面としては、ハルシネーションリスクに向けたセキュリティ環境の構築や情報の取り扱い強化などの対策を講じる必要があります。
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まとめ
生成AIがコンテンツを生み出すための「道具」だとすれば、AIエージェントはその生成AIを活用しながら、ユーザーの目標達成に向けて自律的に行動する「仕組み」です。生成AI単体では実現できなかった業務の自動化や意思決定の支援も、AIエージェントの導入によって可能となり、組織に大きな変革をもたらす可能性があります。
導入・利活用にあたっては、導入から日常的な管理に対応できるよう、IT企画部門やAIに精通した人材の育成・確保が必要です。現在の従業員リソースでは難しいといった場合は、PeacefulMorningが提供する「DX Boost」をご検討ください。
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