こんにちはKAZUNOです。
いよいよ31年続いた平成も終わりが近づき、新しい時代『令和』を迎えようとしています。
巷では同じ思いをもった人たちが手軽に参加できるコミュニティも活発に開催されるようになり、日本国内においても一人一人が興味のある技術分野において日々挑戦しやすい環境になってきているように感じます。
今回は『超高速開発』が日本市場で認知されるまでに苦労されたお話、『超高速開発』と『RPA』との違い、これからの情報システムのあり方についてなど、少しドキュメンタリー形式でお話ししていきたいと思います。
それらについて『超高速開発コミュニティ』の幹事の一人である株式会社ジャスミンソフトの代表 贄(にえ)さんのお話を伺ってまいりました。
目次
会社概要
はじめに今回の『株式会社ジャスミンソフト』とその代表 贄(にえ)さんについてご紹介させて頂きます。
株式会社ジャスミンソフトは沖縄県に本社をもち、東京都中央区勝どきに東京本部を構える日本を代表する純国産 超高速開発ツールのWagby(ワグビー)をプロダクトにお持ちのシステム開発会社になります。
もともとは、今から約18年前(平成13年)に沖縄県の自治体と民間企業で共同出資して設立された事業体(第三セクターと呼ばれる)『株式会社トロピカルセンター』の情報開発部に所属されていたチームが国、県、研究機関向けのシステム開発や調査研究の活動をはじめるようになり、そのチームの一部が2001年に独立して現在の株式会社ジャスミンソフトが生まれました。
日本ではなかなか受け入れられなかった『超高速開発』の考え方
株式会社ジャスミンソフトが、当時初めて生み出した製品は、『住所正規コンバータ』という日本特有の住所表記の「ゆれ」を統一表記に変換(クレンジング)するといった内容の製品でした。それは国土交通省事業の開発がきっかけで生まれ、インフラのMAP(紙)をデジタル化していきデータで扱えるよう、その情報をGoogleマップなどと連携して分析ツールなどで活用されています。
その技術力を活かして2004年には次の製品として『Webアプリケーション自動生成ツール』が生まれました。これがもしかすると日本で生まれた超高速開発の先駆けだったのかもしれません。
そして当時の基盤技術が現在の超高速開発ツール Wagbyにも活用されています。
当初の開発ではJAVAがフレームワークとなっており、開発をし続ける中で以下の懸念を抱いていたそうです。
懸念点
・誰がつくっても似たようなコードになる。
・顧客毎に使い易さ、UIデザインを求めるためコストと時間がかかってしまう。
・年々新しい技術が生まれることで作り方が桁違いに複雑化してきている。
・セキュリティ対策も多様化してきている。
当時もやはり、顧客とエンジニアの共通の課題を『標準化』することができれば、それらの課題を大幅に軽減することができるといった発想から『自動生成ツール』は実は既に生まれていたのです。
しかし、日本国内ではそこから10数年もの間、なかなか顧客に受け入れて貰えない状況が続いていました。
理由としては以下のような内容でした。
理由
・顧客毎で独自の業務ルールが山のようにあった。
・UIデザインもオリジナルのデザインで欲しいとの要望が強かった。
(お客様のその場の思いを聞いて作成することが多かった)
・どの業務においても標準的なガイドラインというものがなかった。
・プログラムの中身が見えないものは信用できないと言われていた。
そして贄さんや当時の仲間の方々とその問題を解決していくために、同じ課題を抱えたSIer企業、ユーザ企業、ツールベンダ企業が集まり『超高速開発コミュニティ』が立ち上がりました。
そこで話し合い、コツコツと開発を進めながら顧客のフィードバックを重ねた末、ようやく2年~3年前あたりから市場でも『超高速開発』が日本国内でも受け入れはじめるようになってきたそうです。
これまでの歩みについてもHPに丁寧に説明が記載されておりますので、そちらもあわせてご参照ください。
『RPA』と『超高速開発』の違い
贄さんは意外にも『RPA』と『超高速開発』は、基本的には同じ問題意識をもっているというご意見でした。
システム開発には時間もお金もかかるという問題点に対して自動化をもって解決を図るといった点では同じ考え方であり、また現行システムを維持したまま業務効率を上げられる視点で考えたときにはRPAの方がどちらかというと『現実解』であるといったご意見をお持ちでした。
RPAと超高速開発ツールの違いを表にまとめると以下のようになります。
◆参考記事:『RPAと超高速開発 – 同じ問題意識から発達した二つのアプローチ』
http://yoshinorinie.hatenablog.com/entry/2018/04/02/100029
~ジャスミンソフト日記より~
上記のようにお互いのアプローチは少し異なります。
RPAは現行システムをそのままの状態で自動化するに対して、超高速開発は現行システムの業務を分析し、その後の業務をデザインしてからアプリケーションを作成していくといったアプローチになります。
それはケースによっては現行システムの業務自体を大幅に見直す必要が生じる場合もあるということにも繋がり、多くの人は導入前の顧客側の負担が高くなる印象を受けると思います。
しかし、海外では『ツールに合わせて業務を再構築する』といった考えの方が強いため、顧客からも受け入れて貰い易いようですが、日本はどちらかというと『顧客の使い易いようにカスタマイズする』といった文化が根強いため『To-Be(あるべき姿)』よりも『As-Is(現状)』のまま自動化できるといった点でRPAが好まれているのかもしれません。しかし、これまでの話を踏まえると両者ともに適用前にしっかり業務の標準化がなされていないと、実は改善されているようで『応急措置』で止まっているかもしれないといった見方もできそうです。そうなると後の維持管理やメンテナンスで苦労する結果になる点で注意が必要となります。
◆参考記事:『”こんまりメソッド” を契機に、業務の棚卸について改めて考える』
http://yoshinorinie.hatenablog.com/entry/2019/04/15/140927
~ジャスミンソフト日記より~
贄さんはいずれにしても自動化する前に『業務デザイン』をすることから逃げないことが重要といった業務改善に関わる人達にとって、とても大切な考え方を教えてくれました。
RPAでも超高速開発でも、これまで見てきた数多くの企業では自動化前の『業務デザイン』に対して真摯に取り組んでいるベンダーや企業は大きな成果を出しているケースが多いとのお話をお聞かせ頂きました。
『SoE(System of Engagement)』と『SoR(System of Record)』の違い
同じ超高速開発ツールでも前回ご紹介させて頂きましたBlue Meme社のOut Systemsとジャスミンソフト社のWagbyは作成方法も含めて随分と違っているように思い、その違いについても少しお話をお聞かせ頂きました。
そこには最近よく耳にする『SoE』と『SoR』で分けて考えるとわかりやすいということがわかりました。
・SoE=『ユーザーと企業を繋げるためのシステム』
・SoR=『記録のシステム(社内の基幹系システム)』
この2つの違いは主に『目的』にあり、特にSoR にはコストの削減が目的となっています。
業務プロセスの無理、無駄をなくし、ヒトの負担を減らすことで企業にとって(間接業務の)人件費削減につなげることから、費用対効果は如何にシステムの導入でどのくらい経費を削減できるかにあるといいます。
Wagbyなどの超高速開発ツールはどちらかというとこのSoRに特化したツールとなっており、一方Out Systemsは、独特な開発手法を用いてSoEとSoRのどちらにも対応しているといった点で現状は異なっているようです。
もしかするとSoI(Systems of Insight)と呼ばれるものがそれにあたるのかもしれません。
◆参考記事:『“お客様のため” の “お客様” とは誰のことか、そして “ため” とは具体的に何をさすのか、自分の言葉で説明してみる』
http://yoshinorinie.hatenablog.com/entry/2018/11/16/131334
~ジャスミンソフト日記より~
まとめ
『超高速開発ツール』という名前は実は正式な呼び名ではなく、『日経コンピューター』がある記事で表現したことをきっかけに『超高速開発コミュニティ』立ち上げの際にコミュニティ側から『名前を使わせて欲しい!』と日経コンピューターへお願いした経緯があるといった少し面白いお話をお聞かせ頂きました。
一般的には『ローコードプラットフォーム/ノーコードプラットフォーム』などと呼ばれる分野に入るとのことですが、今では超高速開発をxRAD(eXtream Rapid Application Development)と呼ぶようになったそうです。
このように最近では様々な場面でローコードプラットフォームのシステム開発ツールを扱う場面やオープンソースなどを用いた効率的な開発が急速に発展してきており、各製品との繋がりを考えながらその環境に合わせてスケールしていくのがトレンドになってきているように思います。
そういった市場の動向を見ていると、ようやく日本国内においても超高速開発コミュニティの関係者の方々の長年の思いが受け入れられるような世の中になってきたのではないかと感じます。
今回、贄さんのお話をお聞かせ頂き、日本国内でも“自己の信じる道”を周囲に発信し続け、長い年月をかけてでも少しずつでも世の中に変化をもたらそうとする行動力と高い志をもっている貴重な人たちの存在にあらためて胸が熱くなるような思いになりました。
また、贄さんは経済産業省が出したDXレポートの中で『2025年の崖』と呼ばれている既存システムの老朽化、複雑化、ブラックボックス化の記事を見て『業界人として宿題を与えられたようで黙っているわけにはいかない』と仰られています。
常によりよい社会になるために競合他社であっても自社の商品を贔屓するでもなく、他社の製品のよさに対しても敬意を払いながら素直に評価されています。そして双方を認め合っていくといった紳士な姿勢と健全なパートナーシップを持ちながら日々使命を感じつつ業界をリードしていく姿勢にどこか強さと優しさを感じました。
これからも日本国内においてRPA、AI、xRADなどそれぞれの分野で同じ課題に向けて共創し合いながら解決に向けた取り組みが進んでいくことを私も引き続き応援していきたいと思います。
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