企業が業務を適切に行うなかでは、情報の収集・伝達・利用・蓄積に特化した情報システムの活用が欠かせません。しかしシステム界隈にはさまざまなIT用語も多く、正しく活用するためには正しく理解しておくことが大切です。
この記事では情報システムにおいても混同されやすいSoEやSoR、SoIなどの概要・メリットについて解説します。情報システムの構築(再構築)や業務改革を検討する企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
SoEとは|定義・概要
SoEとは、企業と顧客との関係性を良好なものにするべく顧客体験に重点を置いたシステムのことで、正式名称を「System of Engagement」と呼びます。企業のなかでも刷新や競合との差別化を図るために用いることが多く、運用面では柔軟性や拡張性に優れているといった特徴があります。
具体的には顧客の購買履歴に合わせておすすめ商品を表示するレコメンドシステムや顧客対応に用いられるチャットボットなどが該当し、顧客の購買行動が大きく変容を迎えるなか、企業競争力強化を実現するためのツールとして重要視されています。
代表的なシステム
SoEで代表的なシステムといえば、下記のようなものが挙げられます。
- Adobe Experience Cloud
- HubSpot
- Marketo
- Oracle CX Cloud
- Salesforce
どのシステムも顧客情報の管理機能や顧客体験の最適化に関連する機能を搭載しているものの、システムによって最適な業務領域が異なる点に注意が必要です。例えばさまざまな業界で活用できるマーケティングツールを選びたい場合はSalesforceを、企業を対象に製品・サービスを提供することの多いBtoB企業であればMarketoが向いています。
選び方については後述しますが、自社に最適なSoEを選ぶ場合は業務領域や製品・サービスにおける顧客ニーズ、予算や既存システムとの親和性について把握することが大切です。
SoEとSoR・SoIとの関係性
SoEは顧客体験に重点を置いたシステムを指しますが、このほかにもSoRやSoIといった混同しやすい言葉も存在します。ここからはそれぞれの概要と相違点について解説するので、各システムの特徴と違いについて押さえておきましょう。
SoRとは
SoR(System of Record)とは、業務で使用するデータを正確かつ効率的に記録・管理することに重きを置いたシステムのことです。経理情報や受発注データ、顧客情報や従業員データなど企業活動の根幹を支えるさまざまなデータを記録し、堅牢性・一貫性・正確性を確保できます。一例としては総合基幹業務システム(ERP)や会計システム、人事給与システムなどが含まれます。
SoIとは
SoI(System of Insight)とは、SoEやSoRから収集された膨大なデータを分析し、有益なインサイトを得ることに特化したシステムのことで、BIツールやデータウェアハウス、機械学習プラットフォームなどが該当します。
顧客の購買行動やWebサイトの閲覧履歴、問い合わせ内容やSNSでのユーザー反応など多岐にわたるデータを統合・分析することで、顧客の潜在ニーズや市場トレンド、製品・サービスの改善点などに対する深い理解につながります。
SoRやSoIとの相違点
SoEと混同しやすい言葉でもあるSoRとSoIですが、それぞれ下記のような特徴を持っています。
SoE | 顧客体験の向上に重点を置くシステム |
SoR | 業務データの記録・蓄積に特化したシステム |
SoI | 顧客情報の分析を通じてニーズ分析を可能にするシステム |
顧客体験の向上にはまず顧客情報を分析し、ニーズを把握する必要があります。ニーズ分析においては多くの情報を必要とすることから、収集したデータを適切に管理するためのシステムが欠かせません。
各システムの特徴について理解すると、それぞれを組み合わせて使った場合、高い相乗効果を得られることが理解できるでしょう。
SoEとSoRを組み合わせるメリット
顧客体験の向上に期待できるSoEと企業で取り扱うさまざまな情報を記録・蓄積できるSoRを組み合わせることで、以下のようなメリットに期待できます。
- データ駆動型の意思決定を加速させる
- 顧客対応の改善を図れる
- 業務プロセスを最適化できる
- 企業成長に応じたシステム拡張が容易になる
- ビジネス環境の変容に対応できる
それぞれの組み合わせによって顧客体験の向上と業務効率化を実現できることは企業競争力の強化につながります。また、2つのシステムを活用することで堅牢性や応用性を兼ねそろえた強固なITシステム環境構築を実現できるでしょう。
SoEやSoRが注目される理由
多くの企業で導入・活用が進むSoEやSoRですが、ここまで注目を集めるようになった背景には下記のような理由が挙げられます。
多様化するニーズに適応できる
SoEの導入によって顧客ニーズに適した対応を実現できます。仮にSoEとSoRの双方を導入した場合、顧客の閲覧・購入履歴をSoRで管理できることから、蓄積したデータをSoEと連携すればECサイトでのレコメンド機能に有効活用できます。
またSoRに蓄積された顧客からの質問データもSoEとの組み合わせればAIチャットボットによる自動応答に切り替えられるため、業務環境の効率化・自動化を実現できます。
顧客満足度の向上に期待できる
SoEは顧客体験の向上に、SoRは情報の蓄積に特化したシステムです。2つのシステムを組み合わせることで顧客情報のなかでも必要な情報を抽出しながら分析できるため、顧客ニーズの深掘りを実現できます。分析後のデータをもとに自社製品・サービスの改善を図れば、顧客満足度向上につながるでしょう。
DX時代に順応できる
DXの後れを解決するべく、SoEやSoRに注目する企業も増えています。世界的に進むDXではありますが、日本はまだまだ後れを取っている状態です。経済産業省の「2025年の崖」でも指摘されているように既存のレガシーシステムがブラックボックス化し、老朽化・複雑化していることが大きな要因です。
SoEとSoRの導入・再構築は「2025年の崖」を乗り越え、データに基づいたビジネスモデルへの変革やアジャイルな経営体制への移行を実現できる方法として注目を集めています。
関連記事:「2025年の崖」とは?起こりうる問題や対応策を解説!
SoEのメリット・デメリット
顧客体験の向上に期待できるSoEですが、それぞれの特徴は下表の通りです。
SoE | SoR | |
目的 | ・顧客との関係性強化、顧客体験の向上 | ・基幹業務の遂行、データの記録・蓄積 |
求められる特性 | ・柔軟性 ・拡張性 ・リアルタイム性 ・利便性 |
・堅牢性 ・正確性 ・一貫性 ・安定性 |
対象データ | ・動的データ(顧客行動履歴、パーソナライズ情報、SNSデータなど) | ・基幹データ(購買履歴、会計データ、在庫データなど) |
導入・運用コスト | ・初期費用を抑えやすい ・継続的なカスタマイズ、連携費用が発生する |
・初期費用は高額になりやすい ・運用が安定することで長期的なコスト削減を実現可能 |
導入・運用難易度 | ・システムの特徴上変化が早いため、改善が伴う ・データの活用能力が必要 |
・レガシーシステムからの脱却が課題になりやすい |
上表の特徴を踏まえ、それぞれのメリット・デメリットは下表の通りです。
メリット | デメリット |
・顧客体験を飛躍的に向上できる ・市場変化に迅速に対応できる ・新たなビジネス機会を創出できる ・データ収集と活用能力を高められる |
・継続的な改善が伴う ・連携・パーソナライズ等で継続コストが発生しやすい ・機能追加のサイクルが速く、運用・ガバナンス設計が不可欠 ・セキュリティとプライバシーリスクへの対策が不可欠 |
SoEの導入検討においてはコスト面だけを考えるのではなく、長期的な視点による費用対効果を評価することが大切です。また、既存の基幹・基盤システムとの親和性や連携可不可などを事前に調べることで導入時のトラブルを最小限に減らし、スムーズな移行を実現できます。自社リソースやDX戦略などと照らし合わせながら最適な導入計画を策定しましょう。
SoEを選ぶポイント
顧客体験の向上をはじめDX時代への対応や業務効率化に期待できるSoEですが、具体的にどのようなポイントに沿って選べばよいのでしょうか。ここからは導入検討する際に役立ててほしい選定ポイントについて解説します。
条件に合わせた形態を把握する
SoEはオンプレミス型とクラウド型の2種類あり、それぞれで下表の特徴があります。
オンプレミス型 | クラウド型 | ||
メリット | デメリット | メリット | デメリット |
・自社サーバーと連携して構築できる ・月額費用を抑えられる ・セキュリティ対策がしやすい |
・初期費用が高い | ・サービスによっては堅牢なセキュリティ対策が講じられている ・初期費用を抑えられる |
・月額費用が掛かる ・インターネット上での使用により情報漏洩リスクがある |
どちらもメリットとデメリットが存在することから、費用対効果や利便性、自社システムとの連携のしやすさ、親和性の高さなどを総合的に確認した上で選ぶことをおすすめします。
デバイスを確認する
顧客体験の向上を実現するためには、顧客が利用する端末と連携できるシステムを選ぶことが推奨されます。自社の業務領域と顧客がメイン利用する端末がどのようなものかを調べることで最適なシステムを選ぶことができます。
なかでもSNS連携機能が搭載されたシステムだと、トラブルが起きた場合でも問い合わせやすい環境構築につながるほか、コミュニケーションの活性化にも期待できます。
操作性や利便性を確認する
SoEシステムの導入にあたっては、顧客が操作する際に大きな支障がなく、利便性を感じやすいものでなければいけません。操作方法にストレスや不満を感じるシステムだった場合、製品・サービスの購入・利用前にサイトから離脱する恐れがあります。顧客体験の向上は顧客満足度と密接に関わる項目でもあるため、操作性や利便性については事前に確認しておきましょう。
SoEの活用事例
顧客体験の向上に重きを置くSoEですが、具体的にどのようなシーンで活用されているのでしょうか。ここからはSoEの活用事例について解説します。
顧客情報の一元管理
ある企業ではECサイトによる注文に加えて電話・ハガキなど別の注文方法に分散している現状によって顧客情報を適切に管理できない企業課題がありました。SoEシステムの導入により顧客情報を一元で管理でき、顧客対応の効率化を実現しました。
この機会にレコメンド機能を追加したことで1人ひとりの顧客に適した製品・サービスの提案も実現し、従来の客単価を超える売上につなげています。
見込み客の管理
ある企業では見込み顧客の管理が適切に行えておらず、自社サービスに興味のない顧客にまでアプローチを広げてしまうトラブルが生じていました。営業担当者の業務負担の増加を機にSoEシステムを導入した結果、サービスに関心を持つ顧客に対する適切な訴求を実現しました。営業担当者の業務負担の軽減とともに新規見込み顧客数も数十倍に増加しています。
まとめ
企業と顧客のつながりを深めることに期待できるSoEと、企業活動に不可欠な情報の記録を担うSoRは、どちらも単体で機能するシステムであるものの、それぞれの組み合わせによって相乗効果に期待できます。
DX推進や業務改革を検討する企業担当者の方には、自社現状と将来の企業像に合わせた最適なシステム戦略の策定が求められます。
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