めまぐるしい発展により多様な業界・ユーザーから注目を集めるAIですが、その開発には「アノテーション」と呼ばれる作業が欠かせないことをご存じでしょうか。アノテーションとは、AIの学習工程でデータに正確な意味付けを行う作業であり、AIプロジェクトに従事する上では深い理解が求められます。
この記事では、アノテーションの概要から注目される理由、種類、メリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。本記事を参考にしながら、自社に適したAI開発の進め方を検討してください。

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目次
アノテーションとは
アノテーションとは、AIが正確に学習できるよう、画像・音声・文章などあらゆるデータにラベルやタグを付与する作業のことです。たとえば、ユーザーがAIに猫の画像生成を求めた場合を考えてみましょう。猫の種類について十分なアノテーションが行われていないAIでは、「黒猫の画像をください」とプロンプトを入力しても黒猫に限定したデータを抽出できず、さまざまな猫の画像が生成されてしまいます。
アノテーションによって世界に存在する物体や生物の種類・特徴を理解したAIであれば、「黒猫」「さび猫」「白猫」など幅広いプロンプトにも正確に対応できるようになります。
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アノテーションが注目される理由
アノテーションが注目される理由は、AIのディープラーニングモデルの性能が学習データの質と量に大きく依存するためです。世の中には膨大なデータが存在し、インターネットの普及によってその量は日々増えていますが、その多くはAIが学習するために必要なラベルやタグが付与されていない生データです。
生データをAIが適切に学習するためには、アノテーションという「加工」を施し、「何が何であるか」を正確に理解させる必要があります。つまりアノテーションは、あらゆるデータを知識に変換するだけでなくAIの精度にも直結する作業であるため、AI開発や精度向上に携わる方は特に理解しておくべき項目です。
アノテーションが用いられるシーン
アノテーション作業が用いられるシーンはさまざまですが、具体的には以下のようなシーンが挙げられます。
- 自動運転AI
- 医療画像診断AI
- チャットボット
- スマートスピーカー
たとえば自動運転AIでは、標識や歩行者、車両など運転に必要な情報が画像データとして収集され、それぞれにラベルが付与されています。チャットボットでは、ユーザーの質問や意図を理解するために膨大なテキストデータへラベルが付与されています。このように、AIの精度や抽出データの質はアノテーション作業に大きく左右されることがわかります。
アノテーションの種類
アノテーションは、取り扱うデータや学習目的によって利用する種類が異なります。ここではアノテーションの種類について解説するので、対象物や範囲の違いを押さえておきましょう。
画像分類(クラシフィケーション)
画像分類は、画像にラベルを付与する技術です。たとえば猫の画像には「猫」を、犬の画像には「犬」のように、大まかに「画像がなにか」といった、AIが対象物の存在を分類・識別するためのラベル付与です。一例としては検品作業での「良品」「不良品」の判断やWebサイトの画像コンテンツ分類に利用されています。
物体検出(バウンディングボックス)
物体検出(バウンディングボックス)とは、画像内に存在する物体や人物を検出し、それぞれを四角い枠で囲んだ上でラベルを付与する技術です。画像分類のように「画像全体が何か」を判断するのではなく、「どこに」「なにが」写っているかを識別できる点が特徴です。
たとえば1枚の画像に人や車、商品などが複数映っている場合、それぞれを枠で囲み「人」「車」「商品」といったラベルを付与することで、対象物の位置や数を学習できます。
物体検出は、製造業の検品作業における不良品検出や、防犯カメラ映像からの人物検出、店舗の来店者数カウントなど、特定の対象物を識別・把握する必要がある場面で活用されています。
領域検出(セマンティックセグメンテーション)
領域検出(セマンティックセグメンテーション)とは、画像内に写る物体や背景をピクセル単位で分類し、領域ごとにラベルを付与する技術です。物体を四角い枠で囲む物体検出とは異なり、対象物の形状に沿って詳細に範囲を識別できる点が特徴です。
たとえば1枚の画像に人や車、道路、建物が写っている場合、それぞれの領域を「人」「車」「道路」「建物」といったラベルで塗り分けることで、画像全体を構成する要素を正確に学習できます。
領域検出は、自動運転AIにおける走行可能エリアの認識や、医療画像での臓器・病変部位の特定、衛星画像を用いた土地利用の分類など、形状や境界を高精度に把握する必要がある分野で活用されています。
文章
文章データは、テキストアノテーションと呼ばれる技術を通してラベルを付与します。特にNLP(自然言語処理)分野で活用されますが、テキストは複数要素を含むため目的や内容に応じて使用する技術が異なります。
たとえば文章に人名や地名、日付が含まれている場合は、固有表現抽出によって固有名詞へラベルを付与します。文章全体の感情を「ポジティブ」「ネガティブ」「中立」などに分類する場合は、感情分析技術を使用します。
音声データ
音声データは、音声アノテーションと呼ばれる技術を用いてラベルを付与します。音声データは用途によって異なるため、ラベル付与ではトランスクリプションと音声イベント認識の2つを使用します。
音声データを聞き取り会話内容をテキスト化するトランスクリプションは、主にスマートスピーカーや音声認識システムの精度向上に役立ちます。一方、音声イベント認識は、話者の声や機械の異音を識別し、その開始時刻と終了時刻をラベル付けします。スマートホームデバイスや製造ラインの異常検知AIなどに活用されています。
動画
動画は静止画が連続するデータであるため、静止画ごとに画像アノテーションが適用され、必要なデータにラベルが付与されます。たとえば自動運転AIでは、動画の各静止画に車両や歩行者、交通標識を検出し、それぞれの動きを追跡するラベルを付与します。こうした技術を通じて、AIは動画に映る物体の動きや変化を学ぶことができます。
なお、動画は1秒間に多くの静止画が存在するため、アノテーション作業が膨大になりやすく、効率化のためには最適なツールや技術の導入を検討する必要があります。
導入検討を前に知っておくべきアノテーションのメリット
アノテーションについて理解を深め、対応できる従業員を用意することで、AIプロジェクト全体に多くのメリットが生まれます。具体的には以下の通りです。
自動化・効率化の実現
アノテーションの活用は手作業のミスやエラーを防ぎ、データ処理プロセスの自動化につながります。たとえば顧客から届くことの多い問い合わせ内容を自動でアノテーションする環境を構築できれば、対応すべき部署・従業員に自動で振り分けられるようになるため、応答時間の短縮につながります。
こうした環境をスモールスタートしながら社内に浸透させられれば、業務全体の自動化・効率化を実現し、顧客満足度の向上にもつながります。
ビッグデータ管理を効率化できる
アノテーションは、膨大なビッグデータにラベルやタグを付与する作業です。そのため、データの分類から検索、分析までの一連の作業の効率化に期待できます。
こうした環境を構築できれば、顧客の購買履歴や医療データなど多様なデータから必要な情報を迅速に抽出し、マーケティング戦略や病気の予測・診断などデータ活用の精度と速度を向上させられます。
データの品質・一貫性の確保につながる
AIによる高精度な予測を実現するためには、データに一貫性のある正確なラベルやタグの付与が欠かせません。アノテーションによってデータの品質と一貫性を確保できれば、AIモデルの学習精度が向上し、より正確な診断・予測が見込めます。
意思決定精度の向上が見込める
アノテーションによってデータ精度が向上すれば、市場調査や顧客行動、競合状況など多様な情報をより詳細に分析できるようになります。これらのデータを適切に使用できれば、意思決定精度の向上も見込まれます。
特に、市場や顧客ニーズの変化に素早く対応できるようになれば、時代や現在の顧客ニーズに沿ったビジネスモデルを確立することも可能です。多様かつ正確なデータによってビジネスチャンスが広がるため、結果として収益増加やリスク回避に関する意思決定も迅速に行えるようになります。
コア業務へシフトできる
アノテーションは専門知識や技術が必要になる作業であることから、アノテーションサービスを利用する企業も一定数存在します。アノテーションサービスを利用すれば、高品質な学習データを確保しつつ、自社リソースをコア業務に集中できます。
コスト削減につながる
アノテーションサービスの利用によって、自社で従業員を確保・教育するためのコストや時間を削減できる点もメリットでしょう。専門業者による高品質なデータは、AIモデルの再学習や修正にかかるコストを抑えることにつながるためです。
また優れた知識と技術を持つ専門業者との連携によって進捗管理やレポート作成のサポートも受けられるため、運用コストの軽減に期待できるのもサービス利用ならではのメリットでしょう。

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アノテーションのデメリット
アノテーションには多くのメリットが存在する一方、下記のようなデメリットも存在します。
人的リソースとコスト
アノテーションは、AIに「単なるデータ」が「何を意味するか」を理解させるための作業です。そのため、専門的な知識が求められる医療分野や士業分野、膨大なデータを取り扱う大規模プロジェクトの場合、多くの人的リソースとコストが必要となることは避けられないでしょう。
品質管理
アノテーションの品質はAIの精度そのものに直結します。そのため、従業員の知識や技術、解釈の違いによっては、ラベル・タグの付与にばらつきが生じる可能性があります。ばらつきは利便性にも影響するため、品質の一貫性はAI運用における課題となる場合があります。
アノテーション作業の進め方
アノテーション作業を進めるにあたっては、主に自分あるいは自社で進める方法と代行業者に一任する方法の2つ存在します。ここからは、それぞれの特徴について解説します。
自分でアノテーション作業を進める
1つ目の方法は自社でアノテーション作業を進める方法ですが、この場合は利用するAIツールに「注釈」「ラベル」機能があるかを確認する必要があります。これらの機能が搭載されているようであれば、活用することで社内用AIの開発業務が効率的に進められます。
特にデータの機密性が高い場合や、アノテーション作業を通じて社内ノウハウを蓄積したい場合に向いています。
アノテーション代行業者に依頼する
アノテーション作業をサービス提供する代行業者に依頼する方法もあります。代行業者への依頼によって、高品質なデータを迅速かつコストを抑えて手に入れることが可能です。
既存従業員がコア業務に集中できるメリットがある一方で、外部委託費用が発生し、アノテーションのルールや進捗管理について綿密なコミュニケーションが必要になります。
アノテーション作業の効率化に有効なポイント
アノテーション作業を効率的に進めるためには、以下のポイントを参考にすることをおすすめします。
自動化ツールを導入する
アノテーション作業の多くは単純作業の繰り返しであり、手作業ではミスの発生や時間的コストの増大につながる恐れがあります。
こうした課題を解決するためには、自動アノテーションツールやプラットフォームの活用を検討しましょう。多くのツールには、AIが初期アノテーションを自動で行い、人が修正・確認する「半自動アノテーション機能」が搭載されており、作業時間を大幅に削減できます。
転移学習を併用する
転移学習は、既に学習済みのAIモデルを新たなタスクに再利用する方法です。たとえば大量の画像を使って学習したAIモデルを医療画像のアノテーションに応用すると、ゼロからモデルを学習させる必要がなくなり、少ないアノテーションデータで高精度なモデルを構築できます。
アノテーションの初期段階から転移学習を活用すれば、データセット準備を効率化できます。
アクティブラーニングを導入する
アクティブラーニングは、AI自らが最も学習効果の高いデータを選び、そのデータに人間がアノテーションを付与するよう求める技術です。AIが自信を持って判断できないデータを優先的にアノテーションするよう心がけることで、やみくもにデータにラベルを付与するよりも少ないアノテーション量でAI精度を向上させることができます。
アノテーションの活用事例
アノテーションはすでにさまざまな分野で実用化されています。具体的には下記の通りです。
自動運転AI
自動車メーカーでは、膨大な画像や動画データに車両・歩行者・交通標識などのアノテーションを行い、AIの認識・判断能力向上につなげています。アノテーションを通じて自動運転車の安全な走行を実現しています。
医療画像診断AI
医療分野では、レントゲンやCTスキャンなどの医療画像にアノテーションを行い、病変部の検出や診断支援AIの開発に役立てられています。医師の負担軽減だけでなく、患者にとって最適な治療法の特定にも貢献しています。
不良品検知AI
製造分野では、製品の画像データにアノテーションを実施し、不良品を自動検知するAIを開発しています。アノテーションを通じて品質管理の自動化と従業員の負担軽減、効率化を実現しています。
小売・マーケティング
小売業界では、店内カメラ映像にアノテーションを行い、顧客行動や動線分析、マーケティング戦略立案に活用されています。特に、来店者の動線を細かく分析することで、売上アップに効果的な商品配置の特定につながっています。
まとめ
アノテーションはAI開発プロジェクトの成功に欠かせない要素であり、高品質なデータをいかに効率的に作成するかがAI性能の向上やDX推進の成否を左右します。
なお、DXプロジェクトを成功させるためには、高品質なアノテーションデータだけでなく、活用できるDX人材の確保も欠かせません。Peaceful Morningでは、600万名を超える人材データベースからAI開発やアノテーション作業を推進するための即戦力となるDX人材を紹介するサービス「DX Boost」を提供しています。
アノテーション作業を効率化し、DXを加速させたい方は、ぜひ以下より詳細をご確認ください。

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