AIの進化とともに需要が高まるなか、企業活動で活用する際には、その精度にこだわることが大切です。AIの精度向上に有効な技術のひとつとしてベクトル検索がありますが、仕組みや類似性検索との違いまで理解しているユーザーはまだまだ少ないのが現状です。
この記事では、ベクトル検索の概要と類似性検索との違いをはじめ、仕組みやメリット、進め方について解説します。企業活動でAIを利活用しており、高精度な検索やレコメンドシステムの導入を検討される方はぜひ参考資料のひとつとしてお役立てください。
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ベクトル検索とは
ベクトル検索とは、データの類似性から検索結果を示す技術のことです。従来のキーワード検索は、ユーザーが入力する単語や文章などを含むデータを検索・抽出することに長けた技術であるのに対し、ベクトル検索はデータが持つ意味やコンテキストを理解している特徴により高精度な検索が実現します。
たとえば、自社製品の画像をもとに、その画像にほど近い製品を検索したいとしましょう。ベクトル検索を使うことで、単語や文章、フレーズが含まれるデータに留まらず、視覚的に類似する製品を見つけることができます。
類似性検索との違い
ベクトル検索と混同されやすい言葉のひとつに類似性検索がありますが、こちらはデータの特徴やパターンをもとに、類似するデータを見つける技術です。これまで私たちが使用していたキーワード検索は、単語や文章に基づいてデータを検索する技術ですが、類似性検索はデータ独自の特徴やパターンに焦点を充てる技術です。
仕組みとしては、データをベクトル化した後、コサイン類似度などを使いそれぞれのデータの類似度を測り、類似度が高ければ検索結果に表示するといったイメージです。
たとえばバラを画像検索する際に類似性検索を使えば、バラと近い形状や色合いの花の画像を見つけることができます。テキストを検索した場合も、たとえば「吾輩は猫である」といった文章を検索すれば、過去にCMなどで使われていたキャッチコピーなど、検索対象とほど近いフレーズが表示されます。
検索の仕組み
ベクトル検索をはじめ、類似性検索やキーワード検索などさまざまな検索手法が存在しますが、そもそも検索がどのように行われているのかについて理解しきれていない方も多いでしょう。ここでは、私たちが日常的に使用する検索の仕組みについて解説します。
文字列比較による検索
1つ目は文字列比較による検索です。ユーザーが入力した文字列(キーワード)と、データベースに格納されている文字列を最初の文字から検索するもので、たとえば「東京」と検索したときに「あ」「い」・・・と文字列を調べ、「と」が一致した後は次に「う」を再度「あ」から検索します。
検索の仕組みのなかでも単純なものであり柔軟性に欠けているため、たとえば「新東京駅」「新東京国際空港」など、ユーザーであれば関連性が高いと判断できるキーワードも、文字列検索であるために表示されないことがあります。また、文字列を1つひとつ照合していくため時間がかかります。
なお、最適化の手法によっては最初の文字ではなく、最後の文字から検索する場合もあります。
全文検索
全文検索は、キーワードからドキュメントIDという1つの流れを使い検索する仕組みです。あらかじめ文書内のすべての単語をリストアップし、目次のような意味を持つ「転置インデックス」を作成したあと、ユーザーが入力した文字列がどのインデックスに該当するかを高速で検索します。
全文検索によってある程度の関連語句を抽出・表示できますが、あくまで単語の一致に基づいていることから、「イヌとネコ」といった質問に対して「ペット」や「種類」など、私たちであれば関連性が高いと判断できるページは表示されないことがあります。
埋め込みデータ
埋め込みデータは、テキストや画像といった複雑なデータをAIモデルが学習して生成する数値の並びを指し、ベクトル検索の中枢のような技術に位置します。ベクトルは元のデータが持つ本来の意味や文脈、特徴を凝縮しているため、人間には理解しにくい多次元の数値情報として表現されます。
たとえば文章の埋め込みはその文章が持つ感情や話題、文脈などを反映します。埋め込みデータの使用によってAIは異なる種類のデータを比較でき、その類似度を計算できるようになります。
ベクトル空間
ベクトル空間は、埋め込みデータが配置される仮想的な多次元空間を指します。互いに意味が近いデータは近い場所に、逆に遠い意味のデータは遠い場所に配置されます。たとえば「イヌ」と「キリン」のベクトルは比較的近い距離に位置し、「ラーメン」「デザイン」といったベクトルは遠い位置にあります。
ユーザーの検索キーワードもこの空間上の1点として表現され、その点から最も近い距離にあるベクトルを検索することで、関連性の高い情報がなにかを理解し、取得・表示します。
ベクトル検索のメリット
ベクトル検索は、従来の検索システムと比べて、以下のメリットに期待できます。
高精度な検索の実現
キーワードの一致ではなく、意味や文脈を理解した検索に対応しているため、従来と比べても関連性の高い情報が表示され、調べたいものとあわせてさまざまな情報を収集できます。
たとえば「アレルギーに対応したパン屋さん」と検索した場合、キーワードに「アレルギー」や「対応」を含まないパン屋も、Webサイトに記載された情報やレビューから「グルテンフリー」「卵不使用」といった情報を発見することで関連性の高い店舗として表示します。
その結果、検索ユーザーの潜在的なニーズに応えることにつながり、検索体験の向上に期待できます。
多様なデータ形式に対応
テキストデータに限らず、画像や音声、動画やログデータなどさまざまな形式のデータをベクトルに変換して検索することもできます。たとえばECサイトでユーザーが気に入った製品があっても、その画像をスクリーンショットしアップロードするだけで、デザインや色、素材が近い製品を検索し、より低価格で購入できるサイトを探すことができます。
UX(ユーザー体験)の向上
ベクトル検索によって高度な検索が実現できれば、ユーザーの探している情報に速やかに辿り着くことにつながり、UX(ユーザー体験)の向上に期待できます。自分のほしい情報に辿り着くまでに数回の検索が必要だったことがなくなるため、ストレスフリーな検索体験を得られるでしょう。
こうしたメリットは、多数の製品を取り扱うECサイトや膨大なドキュメントを管理する社内ポータルにおいて、エンゲージメント向上や業務効率化につながります。
業務効率化
ベクトル検索は社内のナレッジベースやFAQシステムに応用することも可能です。たとえば新入社員が過去のプロジェクト資料を探す際、「Aの製品プロジェクトの課題」といった曖昧な検索キーワードで検索しても、関連性の高いドキュメントを速やかに見つけることができます。その結果、情報検索に要する時間を軽減し、社員の生産性向上に期待できます。
また、カスタマーサポートにおいても、顧客からの問い合わせ内容をベクトル化して過去の対応履歴などから最適な回答を自動検索できる環境構築によって、対応時間の短縮と回答品質の均一化を実現できます。

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ベクトル検索を導入する|具体的な進め方
ベクトル検索を本格導入し、高精度な検索を実現させるためには、事前に綿密な計画を立案し、計画的に進めることが大切です。ここからはベクトル検索を導入する際の具体的な進め方について解説します。
目的を明確にする
まずはベクトル検索の導入目的を明確にしましょう。たとえばECサイトの商品検索の精度向上を図りたい、文書管理システムにおける関連資料検索の効率化などが挙げられます。ベクトル検索を通じて何を成し遂げたいのかを決めることで、用意すべきデータやファイル形式などが判断しやすくなります。
データを集める
次に目的に応じたデータを収集します。画像やテキスト、音声や動画といった各データは形式を最適なものに選定し、かつ大量に集めることで精度の向上に期待できます。
データの前処理を済ませる
収集したデータは、ベクトル化するべく前処理を済ませます。画像のサイズを統一したり、テキストであれば内容を持たないワードを除去したりする作業が必要です。こうした前処理によって、不要な動作が不要になるほか具体的な内容を取り出しやすくなるため、精度の高いベクトル化につながります。
前処理が終わった後は、機械学習やディープラーニングといったモデルを使い、データをベクトルに変換しましょう。
類似度計算
ベクトル化が終わった後は、データ同士の類似度を計算するべく、適切なアルゴリズムを設定します。この場合はユークリッド距離やコサイン類似度などが使用されますが、目的やタスクの内容、計算効率などを考慮しながら選ぶことが望ましいです。
検索インターフェースを構築する
次に、従業員やチームがベクトル検索を問題なく利用できるよう、使いやすさを取り入れた検索インターフェースを構築します。直感的な操作感につながるデザインに加えて、検索結果が分かりやすいものなど、多角的な視点を考慮することで企業活動にも使いなじむベクトル検索を実装できます。
このほか、フィルタリング機能や絞り込みオプションといった細部にもこだわることで従業員の検索体験が向上し、業務効率化や生産性の向上にもつながります。
効果検証・継続的な改善
最後にベクトル検索が期待通りの精度であるかを検証します。従業員からのフィードバックや検索結果の分析を実施し、課題・問題点の特定を図ります。必要に応じてアルゴリズムやインターフェースの調整を行い、継続的な改善に努めることでベクトル検索の精度向上につながり、高い検索体験を実現できます。
ベクトル検索の注意点
ベクトル検索の実装にあたっては、以下の注意点に留意しましょう。
データの品質と量を確保する
ベクトル検索の精度は収集・分析を行うデータの品質や量に左右されます。仮にデータ品質が低かったり量が不十分だったりすると、高度なAIモデルを用いても高精度なベクトル検索にはつながりません。ベクトル検索を実施する際は、品質の高いデータと適切な量を集めることを念頭に置きましょう。
適切な類似度計算を選ぶ
類似度を計算するアルゴリズムは、ユークリッド距離やコサイン類似度をはじめ複数存在し、それぞれに適切なユースケースが存在します。たとえば文章の類似度を計測する際はコサイン類似度が、物理的な距離を計測する場合はユークリッド距離が適しています。
アルゴリズムの種類と目的を照らし合わせ、最適なアルゴリズムを選択する必要があることも念頭に置きましょう。
計算コスト・検索速度のバランスを見極める
ベクトル検索は、高度な計算処理を行うために、計算コストが高くなります。また、リアルタイム性が求められるシステムであれば、検索速度も課題になる場合があります。ベクトルデータベースやインデックスの種類などは慎重に検討し、コストとパフォーマンスの双方にとって最適なバランスを見極めることも大切です。
まとめ
ベクトル検索は、単なるキーワードの一致性ではなく、意味・文脈を理解した検索を可能にする技術です。高精度な検索を実現するほか、多様なデータへの対応、UXの向上などさまざまなメリットがあり、特にECサイトや社内ナレッジベースなど、多様な分野での活用に期待されています。
しかし導入にあたっては、目的の明確化や質の高いデータを十分な量で用意する必要があるなど、いくつかの注意点も存在します。
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